6:1[sage]
2010/05/30(日) 02:38:44.51 ID:1o/NXgko
すでに満月も傾いていた。
もう夜更けもいいところだが、森羅万象の天然の中で完全に沈黙がおりることはない。
耳を澄ますと虫たちの合唱は無論のこと、夜行性の獣モンスターの鳴き声も遠く響いている。
いくら闇の力を業とする精霊使いでも、不慣れな外界での夜は決して油断ならない。
「……もう一度溶け直した方がよさそうだな」
さっき家の中の照明を浴びたことで、ここに向かうまでかかっていた術の効力が消えてしまったようだ。
外に出たダルクは、いち早く杖を振るった。
途端にダルクの輪郭が希薄になり、存在感までもみるみる霞んでいく。
周囲の闇に同化する初歩的な闇霊術だ。もちろん暗闇でしか使えない。
これで少なくとも自分と同等以下レベルの相手には、自身の姿が簡単に認識できなくなった。
効果は、ダルクの意識が闇に傾いている限りずっと続く。
「まずは水場を探そう。確か地図によれば山麓辺りに泉があったはずだ――」
いかな修験者といえども、水なしで生き延びる人型モンスターなどザラにはいない。
日照りにそなえた水場の確保は、予め決めていた独り暮らし計画の必達条件。
目指す泉に向かい、林の中を突き進んでいく。
草をふみしめ、枝葉をふみ折る感触がなんて心地よい。
闇の世界ではとことん泥と土ばかりだった。
緊張と興奮のふんだんに入り混じった、心躍る探索ならぬ探検。
ダルクは外界での夜を十二分に満喫していた。
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