615:>>553〜[sage saga]
2011/08/20(土) 01:43:10.96 ID:wYW2nQaXo
闇霊使いの少年ダルクと、地霊使いの少女アウスは、ホール隅の同じテーブルから共にカウンターを見守っていた。
ただでさえ地味な位置にいたにも関わらず、ことさらに息を殺して気配を潜めている。
乱入してきた治安維持隊たちに、まかり間違って素性を改められるようなことになればおしまいだった。
陰気分のこもる酒場内のホールを、まばゆく照らし出すかのようなオーラを帯びた四人の男女。
実際、彼らの身に着けている白銀の装備は、反射光以外の光を放っているようにもみえる。
天から遣わされた光の使徒、ライトロード。
闇に生きるダルクの眼には、彼らがあまりに眩しく、とても直視できたものではなかった。
酒場のマスターと対峙した銀髪の騎士・ジェインは、まずはもったいをつけて頭を下げた。
「ご主人、まずは突然の非礼を詫びよう」
顔を上げたジェインは穏やかな笑みを浮かべていたが、ダルクにはその口調が高圧的に聞こえてならなかった。
眩しさをこらえ、ジェインの顔を一瞬だけ目で捉える。
やはりだ。遠くからでも分かる。
あれは絶対の優越を確信している目。
自分以外の存在を軽んじ、見下している目……。
「なに、こちらこそお勤めご苦労様です。それで用件は? 手短に願いたいものですな」
対してマスターは、賭場でつちかったポーカーフェイスだろうか、貼り付けたような無表情を微動だにしない。
あんな顔で堂々と受け答えされたらたじろいでしまいそうなものだが、ジェインはさらりと「手短に済ますとも」と受け流した。
「つい先刻、我々のところに通報があったのだ。なんでもこの酒場で、違法の賭博行為が横行しているとか」
「さて。その賭博行為とやらが行われていた証拠は?」
「それが困ったことに、我々のところへ怒鳴りこんできた証人ただ一人だけなのだよ」
「それはまた。真偽も分からないたった一人の証人で一騒動ですな」
「我々も治安維持の名のもとに駐在している立場でね。例え徒労に終わろうとも、悪事が叫ばれたら看過するわけにはいかないのさ」
「殊勝なことです。もっとも今回は徒労に終わりそうですが」
「しらばっくれるな!」
突然、太い怒鳴り声が横槍をいれた。
最初に騒々しくここへ足を踏み入れた、あの強引な番兵だった。
「この店が賭博をやっていることは前々から分かっているのだ! いままではお情けであえて見逃してきたが、それも今日限りで」
直後、大男の豪腕が伸び、番兵の言葉をさえぎった。
屈強な手のひらが兜ごと脳天をとらえ、頭をわしづかみにされた番兵は「うっ」と身体をこわばらせた。
「ガロス」
ジェインがたしなめるように呼びかけると、ガロスと呼ばれた大男は突きはなすように番兵を解放した。
続けてジェインは見向きもせず、背景の雑兵に抱えられた番兵に言った。
「我々に任せろと言ったはずだ。次に余計な口を挟んだときは、相応の裁きを覚悟したまえ」
「は、はっ! 申し訳ありませんでした!!」
ダルクはその流れでいくらか安心する。
あのジェインという男は好きにはなれないが、先の番兵のように強硬姿勢で取り締まりにかかる様子はなさそうだ。
あとはマスターがうまくいなしてくれれば、この場は穏便に済むだろう。
――それにしても。
ダルクは真横に視線をずらす。
四人の中で一人だけ身なりの違う、あの銀髪の女の子。
後方でキョロキョロと興味津々に周りを見渡しているが、彼女も治安維持の一員なのだろうか?
身に着けているローブといい杖といい、まるで自分たち霊使いに通じるものがあるが――。
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