679:>>632〜[sage saga]
2011/09/11(日) 16:03:20.63 ID:3XneW+eEo
ダルクにとっては完全に不意を突かれた形だった。
日頃から手首に巻いている包帯越しに、いま何者かが握りしめる感触がある。
「えっ?」と零しながら自分の左手に目をやると、黒い手袋がしっかりと自分の左手首をつかんでいた。
アウスではない、アウスは目の前にいる。つかまれたのは背後からだ。
この場所、この状況で誰かに捕らえられる理由は。
肝がつぶれる思いで素早く顔をあげると、そこには。
わずかに青みがかかった、銀色の瞳。
どこか憂いを帯びた表情の女の子が、しっかりダルクを見上げていた。
あの子だ。ライトロードの中で浮いていた、自分たち霊使いに似た格好をしていたあの。
髪型は左右に幅のあるふんわりしたおかっぱで、頭の天辺からピョコンと一本毛が飛び出している。
銀髪だった。というのも、その白い髪が仄かな光をまとっているせいで、そう表現せざるを得なかった。
ああ、やはりこの子は光属性なのだと悟る反面、「待てよ」とも思う。
それならばなぜ闇属性である自分は、この女の子を直視できるのだろう。
あのライトロードのジェインを見るときは、遠目からでも痛いくらいの光が自分のまなこを刺激した。
けれどもいま目の前にいる女の子は、あろうことか視線を合わせているにも関わらず、全くなんともない。
いやそれどころか、この顔を見ていると――心の奥底で、別の何かが湧き上がっていく。
温かい何か。なぜそんな感情が湧くのかは分からない、けれども。
なにか……ほっとしたような……救われたような……。
(いや、待て)
相手は光の使徒・ライトロード。
例えそうでなくても、その連れに手を取られたとなれば、闇属性である我が身の危険は変わらない。
慌てて我に帰ったダルクは、すみやかに彼女との視線を逸らすことで意思表示した。
「ごっ、ごめんなさいっ」
まるで、やわらかい光が優しく耳の中に入ってくるような、純朴なソプラノ。
それでいてぎこちない謝罪の語にも関わらず、明るく、快活さが伝わってくるようなエネルギーを感じさせた。
侘びと同時に、ゆっくりと手が放される。
とにかく彼女にどんな思惑があったのかは知らないが、やはりただの勘違いだったようだ。
「ダルク。どうしたのですか」
足止めをくらっていたせいで、不審がったアウスが小さく引き返してくる。
その囁きにダルクは何でもないという素振りをみせ、すぐに足を踏み出した。
「ライナさん、どうしたのですか?」
そのときダルクの背後の、そのまた後ろの方から声が投げかけられた。
例のライトロードの声だ。似たセリフでもこっちはまずい。
ダルクは振り向きもせず、足を速める。
アウスも状況を察したらしく、一言も発さず出口へと急いだ。
「そこの少年、止まりたまえ」
聞こえないふりだ。
ダルクは一瞬たじろいだアウスの背中を押した。
「止まりたまえ」
ダルクは足を止めた。
止まらざるを得なかった。
敵意をむき出しにした視線が、背中に突き刺さるようだった。
いつの間にかカウンター席を立っていたジェイン。
彼は、背面左腰に差している愛剣へと手をかけていた。
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