694:>>688〜[sage saga]
2011/09/15(木) 15:22:48.62 ID:yzwl6tpxo
「な、なんだっていうんだ」
ダルクはその手荒さに反発するように、ジェインの手を無理に振りほどいた。
思いのほか、拘束は簡単に外れる。
なぜかは全く分からないが、ダルクの手錠をその目で確認したかっただけのようだ。
「……その枷は?」
「かせ? ああ……別に前科の名残って訳じゃない。ただの『闇』の研究資料だ」
「……両手首に、ついているのか?」
「? ああ、まあ」
「いつから付けている」
「つ、つい最近だ。『闇』に扮する研究は、この間始めたばかりだからな」
妙に手錠にこだわる。
確かに、実をいえばこの手錠はただのアクセサリーではなく、強固な結界が内臓された闇のアイテムだった。
しかしジェインの様子は、もはやダルクが『闇』かどうかよりも、手錠の存在そのものを追及している始末だ。
ダルクにはさっぱり訳が分からない。
特定の手錠をつけた、凶悪な罪人でも探しているのだろうか?
それともライトロードぐるみ、もしくはジェイン個人で必死に探している手錠がある?
ジェインはしばし黙り込み、キョロキョロと視線を這わせた。
と思えば、何かを一人で呟く。
ダルクには辛うじて、「――違うか」という音だけ耳に拾った。
挙動不審のジェインは、最後に再びダルクの両目を捉えた。
「……ならばいい。私の勘違いだったようだ」
「?」
「不問だ。行きたまえ、地霊使いのクルダよ。急いでいるのだろう」
ジェインは急にすべての興味を失ったかのように、その身を翻した。
マントをはためかせ、始終を面白そうに傍観していた仲間(確か名前はガロス)の隣席へと戻っていく。
――ライナの手を引きながら。
「ちょっ、ちょっとジェインさんっ?」
「ライナさん、二度とああいう輩には関わってはいけませんよ」
「どうしてっ?」
「それより一杯いかがでしょう。地上の酒も悪くはありません」
などという会話が遠ざかっていく。
ダルクは理想的な形で窮地を脱したというのに、未だにぼうっとその場に立ち尽くしていた。
釈然としないというか、何かがひどく消化不良というか、頭と胸のもやもやがはっきりしないというか――。
「急ぎましょう」
ローブの引っ張りを感じて、はっと我に帰るダルク。
アウスの片足はすでに出口の方に向いていた。
そうだ、また面倒に巻き込まれる前に、急いでこの場を離れなければ。
ダルクは軽く頷くと、最後に店のマスターと、エルフの姉妹に向かって会釈をした。
皆忙しそうに作業に没頭していたが、エルフの妹さんだけは気づいて、微笑みながら小さく手をあげてくれた。
だがそのとき、カウンター席にいたライナにまで目が合ってしまった。
まずい、まだマークされていたのだろうか?
ダルクは慌てて背を向け、逃げるように店を後にした。
1002Res/501.68 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。