718:【1/2】[sage saga]
2011/09/27(火) 16:05:14.11 ID:StcvTfZco
◆
アウスは、まだ夜闇のこもる静かな廊下を歩いていた。
客人を置いた屋根裏部屋から、一度自分の部屋へ戻っていくところだった。
存外目立つ自らの足音を聞くともなく聞き、ぼんやりと物思いに耽ってゆく。
思考の基点は、件の少年について。
(闇霊使い……ダルク……)
アウスは、彼が興味深くてならなかった。
アウスが今まで目にしてきた『闇』の中で、ダルクは群を抜いて『闇』らしさを感じさせなかった。
この町は異常なまでに『闇』に対する偏見が満ちている。
住民のほとんどが、過去に『闇』が犯した所業を蒸し返し非難するばかりで、そこで思考停止している。
『闇』は害悪、危険、排除すべきものと一方的に見解を染めており、ろくに『闇』のことを知ろうともしない。
アウスは疑問を感じずにはいられない。危険であるなら、尚更知るべきではないだろうか。
引いては固定概念の枠を越えて追究する姿勢こそが、事態を解決する糸口になるのではないだろうか。
『闇』は全てが悪になのだろうか?
『闇』から学べることはないのだろうか?
『闇』と自分たちは、本当に分かり合えないのだろうか?
ダルクとの出会いは、偶然降ってわいたチャンスだった。
もともと知的好奇心が旺盛だったアウスは、ダルクから――『闇の世界』出身者の口から、真実を聞きたかった。
気を引くために持ちかけたチェスの勝負。
アンティとして賭けた彼の杖は、本気で欲しかったわけではない。
「杖の代わりに」という名目であれば、対話の駆け引き上、大幅なアドバンテージを得られると思ったから。
同じ霊術使いとして、自前の杖がどれだけ大切かなど、言われるまでもなく分かっていた。
要するにほんの少し脅しをかけるような格好でペースを握り、好きなだけ欲しい情報を引き出すつもりだった。
あとは遊び半分でチェスに付き合ってやり、大差をつけて勝利すれば計画はカンペキだった。
まさか彼が自分と拮抗するなど思っても見なかった。
序盤の陣形は見たことがないし、しびれるような奇手を放つタイミングは絶妙だった。
中断したときの局面は覚えているが、その続きをシミュレートしても勝敗までは読みきれない。
いつか白黒をつけられる日が来るのだろうか。
(……)
そういえば彼はライトロードに対して偽名を使うとき、自分と同じ『地霊使い』を名乗っていた。
その繋がりであれば、今後この町に来た彼と、合理的に付き合うことができるかも――。
(ちっ違っ。付き合うというのはそういうことではなくてっ)
ダルクが同じ年頃の異性であることが、急激に意識されていく。
今までは一研究者として、何の抵抗もなく彼に接してきたが――
見知らぬ男の子を自分の住まいに誘いこむなど、実はとんでもなく大胆なまねをしたのでは。
「……こほん」
咳払いひとつで思考回路をリセットする。
物事を深く考えすぎる悪癖は自覚しており、また対処法も心得ていた。
(私としたことが馬鹿なことを……)
ようやくたどり着いた自分の部屋の扉を空け、中に吸い込まれていくアウス。
その耳がほんのり赤くなっていたことは、当人には知る由もなかった。
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