719:【2/2】[age saga]
2011/09/27(火) 16:07:08.89 ID:StcvTfZco
「姐(アネ)さんお帰りやす!」
部屋に戻るなり、茶色のモンスターが調子っぱずれのドラ声でアウスを出迎えた。
悪魔の角と翼を持つビーバー、『デーモン・ビーバー』。
アウスが主従契約を交わした、地属性の使い魔である。
そのひょうきんな三白眼を見るなり、アウスはどっと疲れたようにため息を吐いた。
「……アーチフィンド。まだ起きていたのですか」
「姐さん! いい加減おれっちの名前を変える気はないんすか! もう海外版はうんざりだ!」
「また訳の分からないことを」
このデーモン・ビーバーのことを『アーチフィンド・モルモット・オブ・ニファリアスネス』と呼ぶのはアウスだけだった。
アウスが自分の使い魔に相応しい名前を考えて名づけたのだが、凝り過ぎて収集がつかなくなった結果である。
名前にモルモットが入っているのは、「モルモットの方が良かった」という少女趣味の名残り。当人にはいい迷惑である。
「今日のお前の役目は終わりました。とっとと休むがいいでしょう」
「ひどいよ姐さん! おれっちのおかげでライロの奴らが来たのが分かったのに!」
「その働きだけは素直に認めましょう。だから大人しく自分のベッドで寝ていなさい」
「姐さぁん!」
アウスがチェスバーに入るときには、外回りを必ずこの使い魔に見張らせていた。
ビーバーが監視する位置にあらかじめ設置された地霊術の魔方陣を通し、アウスの杖と通信することが出来る。
治安維持隊などの接近を確認したら、すぐさま主人に知らせるという簡単な仕組みだが、今回はこのおかげでチェスバーに居た者は全員助かった。
取り締まりは緩めとはいえ、金銭物品を賭けたアンティ勝負は一応は違法。アウスは常々保険をかけていたのだった。
ちなみにチェスバーのマスターはこのことを知っており、店を守ってくれる礼として多くの情報をアウスに提供している。
「あれ? 姐さんどこに行くんですかい?」
上着は壁にかけたものの、自分の杖は離さずに机の引き出しを漁るアウス。
不審を感じたビーバーは、ドタドタと主人の下へ駆け寄った。
「ん? 姐さん、なんだか闇のにおいがしやすぜ……?」
「えっ?」
「んんっ? そればかりか、さっきまで誰か男と一緒にいたような」
水晶を集めた重い杖。その先端がビーバーの頭に振り落とされた。
悲鳴を上げてのた打ち回るビーバーに、アウスが微妙に衣服を気にしながら言う。
「婦女のにおいを嗅ぎまわるなど無礼千万野卑野蛮。今度やったら一日食事抜きです」
「そ、そんなぁ押収だぁ! 強制接収だぁ!」
「いいですか。この部屋でじっとしていなさい」
部屋を出る間際、アウスの眼鏡が鋭い光を放った。
「絶対についてこないで。お前の振る舞いを見られるのは主人として最大級の恥です」
「あっ、やっぱり誰かに会いに行くんすね! いったい誰にギャアア!」
「アーチフィンド。分かりましたね?」
「はっはひっ!」
すごみを利かせて部屋の扉を閉め――小さなため息を吐く。
すでに長い付き合いなので今更嘆いてもしょうがないが、どうせならもっと慎みのある使い魔がよかった。
おかげで初対面の相手には毎回、自分のイメージがぶち壊されないよう気を配らなければならない。
(……そういえば、彼はどんな使い魔を?)
ふたたび屋根裏部屋に向かうアウスの足取りは、知らず知らずのうちに軽くなっていた。
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