過去ログ - 闇霊使いダルク「恋人か……」
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782:【1/4】[sage saga]
2011/11/03(木) 15:53:44.92 ID:RNsB/8vFo
 空は快晴。時刻は夕方。
 斜陽が町並みを照らし出し、一様に長い影を引き伸ばす。
 
 町のにぎわいは、夜中とはケタ違いだった。
 中でも、露店が道の両脇を敷き詰めている大通り――市場(バザー)の盛況ぶりは凄まじかった。
 買出しの主婦や勤めを終えた人々、あるいは異郷の人種などが大勢入り乱れ、巨大な雑踏を形成していた。
 
 カゴに盛られた色とりどりの野菜・フルーツ・香辛料。
 多分にガラクタも混じった金具の日用品の山。
 そこはかとなく戦いの臭いが漂う、武具や魔道書の専門店。
 
 至るところで華やかな呼び込みが響き渡り、時には陽気な奏楽も流れてくる。
 余った在庫を叩き売るらしい叫び声、子供がはしゃぐ声、動物の鳴き声。
 目を瞑っていてもまるで飽きを感じさせない。

 訪れる者によっては、まるでこの世のものとは思えない別世界だった。
 訪れる者――例えば、いままで闇の世界で育ってきた、表世界にデビューしたばかりの少年。



「おっと気をつけな」
 
 フードを頭から被ったその少年は、不意の衝突によろめいた。
 しかし「す、すまない」と詫びを返した時には、すでに粗暴な男は人ごみに紛れてしまっていた。
 
(な、なるほど。下手にじっとするよりかは、適度に歩いたほうが安全かもしれないな)
 
 フードの中の黒目がきょろきょろ動き、目元のとなりを汗が流れていった。



 闇霊使いの少年・ダルクは、図書館宿舎の屋根裏部屋で目覚めたあと、まっすぐ市場に向かった。
 買い出しという、この町に来た本来の目的をまっとうするために。
 アウスにもらった『黒いペンダント』を胸元にさげ、地図を片手に持ち、杖と使い魔を懐に隠した上で――
 普段の町でもっとも賑わう場所へ、もっともにぎわう時間帯に訪れたのだった。
 
 ダルクは唖然とするしかなかった。
 右を見ても左を見ても、指で数え切れないほどの人々。
 バーニング・ブラッドの時とは比較にならない人の多さ、姿かたちの多様さ。
 
 景観も良い。
 通りのあちこちに、邪魔にならないように花壇や街路樹が植えこまれており、喧騒の中に潤いを与えてくれる。
 わずかな隙間さえ惜しむかのように立ち並んでいる家々は、一軒も不恰好なものがなく、各々の建築美を全面に主張している。
 さらに今は日影が広がる夕刻なので、影に埋もれた場所とそうでない場所がくっきり見栄えよく分かたれている。
 ダルクは生まれて一度もこんな光景を目にした覚えがなかった。

「すごいな……」
 
 懐にもぐりこませている、使い魔のコウモリにも見せてやりたいぐらいだった。
 もちろん光に弱いモンスターを日中に解き放つわけにはいかない。
 ダルク自身も、アウスにもらった闇のアイテムがなければ、こうして昼の買い物に出かけることは叶わなかった。
 彼女には並ならぬ感謝をしなければならない。
 
「……!」
 
 その時、ダルクからあまり離れていない位置で、白銀の衣装を身にまとった男女が通り過ぎていった。
 ライトロードだ!
 昨晩の記憶に新しい、目に突き刺さるような光を撒き散らしていたため、瞬時に確信する。
 
 ジェインは自分達の立場を『治安維持隊』と称していたので、おそらく巡回しに来ているのだ。
 酒場で見た面々とは違うが、当然彼らも『闇』を取り締まる権限と能力があるだろう。
 
 ダルクは片手でフードを深く被りなおした。
 この町では『闇』属性のモンスターは排他的な傾向にある。バレたらたちどころにお縄だ。
 アウスの厚意を無駄にしないためにも、昨日の今日で捕まるわけにはいかない。
 
 ダルクは身を縮めるようにして、ライトロードとは反対方向へ足を進めた。
 


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