過去ログ - 闇霊使いダルク「恋人か……」
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784:【3/4】[sage saga]
2011/11/03(木) 16:05:38.35 ID:RNsB/8vFo
 さっきまでそこにいたまたたびキャットは、すでに消え失せていた。
 
 ダルクは急転直下で窮地に陥った気分だった。
 昨晩チェス・バーで執拗に視線が向けられていたのは、気のせいではなかった。
 やはり自分が闇に生きる者であることを、このライナだけはしっかり見抜いていたのだ。
 今にして思えば、最初に手首をつかんで引き止め、ピンチを呼び込んだのも彼女だった。
 
 逃げ出すか。戦うか。
 このままおめおめとライトロードに突き出される訳にはいかない。
 ダルクはすばやく懐の杖へと手を伸ばした。

 ほぼ同時に、ライナも手を伸ばした。
 ただし懐ではなく、ダルクの目の前に。
 
「ボクはライナ! 光霊使いのライナだよっ!」

 ダルクは呆気に取られ、握手を求めるその手を見つめた。
 一か八かの場面でいきなり自己紹介されては、まったく流れがつかめない。
 
(……オレを捕まえに来たんじゃないのか?)
 
 ダルクは警戒しつつも、何となく流れで握手に応じる。
 ライナは、黒い手袋の方の手……手錠をつけていない右手を差し出していた。
 握ると、ダルクよりも少し小さい手で、手袋を通してほんのり温もりが伝わった。
 
「オレは地霊使いの……」
「知ってるよっ。よろしくっ、クルダ!」
「あ、ああ。よろしく……」
 
 ダルクとしては、ライトロード――治安維持側に属するライナとは関わりたくなかった。
 ただでさえ身を忍んでの買い物なのに、どう転んでもこれ以上のリスクを負う意味はない。
 
「じゃ、じゃあ今買い物に来ていて忙しいから、また後で」
「ちょっと待ってっ」
「うわっ」
 
 ダルクの腕を取ったライナは、思わぬことを小声でささやいた。
 
「ね、ボクも一緒に行かせて。いま、追われてるんだ」
「えっ? 誰に?」
「ライトロードの人たちに」
「ど、どういうことだ? ライナはライトロードじゃないのか?」
「ボクは違うよ。今回の治安維持派遣で、無理を言って一緒に降りてきたんだよ」
「降りてきた?」
「うん。ボクたちが住んでいるところは、雲の上にあるのっ」
「雲の上!?」

 ライナは橙に染まりつつある大空を指差し、「天空の聖域っていうんだよっ」と付け加えた。
 ダルクは師からそういう場所があることは聞いていたが、にわかには信じられなかった。
 しかし「天の使い」と書いて天使と呼ばれる種族がいる以上、あるいは実在するのだろうか。
 
「……それで、ライナはなんで追われてるんだ?」

 何もない夕空を見上げても仕方ないので、ダルクは状況の進展を急ぐ。
 するとライナは、悪戯っぽくもじもじしながら笑った。
 なんとなくダルクは、どんな笑顔も似合う女の子だなと思った。

「いやぁ、それはその。ちょっとね」
「?」
「オシノビなんだ」
「おしのび?」
「うん。地上の世界がどんなのか、一人で見てみたくって」
「勝手に抜け出してきたってことか?」
「まぁ、そんなトコロ」
 
 ダルクの勘では真実だと告げている。
 そもそもこの子は、人を騙すことに長けたタイプにはみえない。

(お忍び、か)

 ダルクは、まるで宮殿を飛び出したおてんばなお姫様のようなイメージを浮かべた。
 いや、あのライトロードに無理を通せるあたり、ひょっとすると本当に相応の身分なのかもしれない。
 


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