797:【3/3】[sage saga]
2011/11/08(火) 16:16:18.18 ID:NCCnMA9Zo
ダルク達は雑貨の通りをぐるりと見回り、まずは手頃な陶器屋を選んだ。
ここで食器や容器になりそうなものを見繕う。
「いらっしゃい、ウチの商品はどれも上等だよ!」
幸い店主は壺の中に入っておらず、悪趣味なジョークも飛ばしそうになかった。
「どれがいいかな……」
「あっ見てっ、この壺きれいっ」
「おっ、お嬢ちゃん目が利くねぇ! そいつぁ値打ちもんだよ!」
「100万DP!? た、高いな……」
「そいつぁ東洋の名工・虎鉄の友人のいとこの義兄弟の知り合いが作った極上の逸品だからな!」
「すごぉいっ!」
「名工から遠すぎるだろ」
ダルクは、値札がついているだけの安価な商品たちの方をのぞき込んだ。
メインは焼き物らしいが、木製や金属製の商品も扱っているようだ。
運のいいことに、お目当ての食器なども一式置いてある。
「うん、これにしよう。それからこれと――」
「あ、危ない嬢ちゃん!!」
「えっ?」
ダルクは店主の叫び声を聞いた刹那、背筋が凍りついた。
振り向く前には、100%ライナが何かやらかしたのだと確信していた。
そしてダルクの経済事情では、100万DPなんて大金はとても払えなかった。
「ライ――」
ダルクと店主は息を呑みこんだ。
果たしてライナは、案の定店の壺を取り落とし、まさに地面に衝突させてしまうところだった。
が。
なんと彼女はブーツのつま先を上に曲げ、足首にできたスポットで壺を柔らかくキャッチしたのだった。
壺は地面に激突することなく、見事吸い付いたように足首に収まる。
「とっとっ」
片足での器用な身のこなし……いや、神がかった芸当。
ダルクが唖然としている間に、ライナはなんなく壺を拾い上げて陳列棚に戻した。
「危なかったぁっ」
「じょ、嬢ちゃん、気をつけてくれよっ」
「ごめんなさいっ」
店主が大きな安堵のため息をつく中、ダルクはまだライナの足に目を落としていた。
慌てず騒がず、さも当然のようにやってのけた今の技。
瞬発力と判断力と精神力と……あと何が必要だっただろう。
今まで正直、ライナを侮っていた。
誰かが一から面倒を見なければならない、天真爛漫な子どものような認識だった。
しかし思えば彼女は、精霊使いを名乗っていた。
霊術を扱えるということは、すなわち最低限の戦闘能力は備えているということ。
ひょっとすると、ライトロードの一行に混じってもおかしくない程度には――。
「ねえ」
ライナの声に、はっと我に帰るダルク。
フードの中の青みがかった銀の瞳が、間近できょとんとしていた。
「どうしたのっ?」
「あっ、あぁいや。ご主人、これをくれ。それからこれも――」
「まいどっ!」
買い物を済ませ、店を離れる。
歩きながら自前のショルダーバッグにそれを詰め終えると、またライナが飛びついてきた。
「ねえ次はっ、次はっ?」
「そう慌てるなって」
フードから飛び出しているライナのクセッ毛を、ダルクは緊張した面持ちで見つめた。
心なしか、正体がバレたときのリスクは予想以上に大きいように思えた。
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