802:【1/2】[sage saga]
2011/11/10(木) 16:07:20.28 ID:NLbES4SMo
ダルク達は次に包丁・果物ナイフを購入すべく、武具を扱った店に立ち寄った。
店主はいかにも頼もしそうな、筋肉隆々の濃い男だった。
「いらっしゃい! 盾をお探しかね?」
「いや、ちょっと包丁と果物ナイフを……」
「そうか。では盾はどうかね!?」
「い、いや、必要ないです……」
「残念だ。……しかし……守備力が上がるが!?」
やけに盾を薦めたがる店主だった。
頼もしいガタイの良さと野太い声もあいまって、筋肉とともに妙な迫力をむき出しにしている。
「ボクたち、魔法使い族だもんねっ。盾なんて扱えないよねっ」
「なんと。今の環境では、どんな種族でも盾を扱うことを知らないのか?」
「そうなのっ?」
「そうだともっ! 守備力がなくては、ろくにフィールドに留まることも叶わないからな!」
「へえっ、ボク知らなかったなっ」
「こらこら」
ダルクがついていなければ、今頃ライナは市場中のカモにされていただろう。
そもそもこれまでの言動を見る限り、ライナはどうも世間一般の常識が欠けているようだ。
よもや本当に箱入り育ちだったのだろうか。
それとも、天空の聖域とやらに住まうものは皆同じなのだろうか。
「すごいなぁっ、かっこいいなぁっ」
「……また店のものに手を出すんじゃないぞ」
「はぁいっ」
まぁそれはさておきと、ダルクは(店主の熱い視線を無視して)店の奥に足を踏み入れた。
武器は小さなものから順にきれいに陳列されていたので、お目当ての小型の刃物はすぐに見つかった。
折りたたみ式ナイフ、ペーパーナイフ、果物ナイフ、キッチンナイフと続き――
サバイバルナイフ、ダガー、ククリときて、次からはショートソード以上のサイズが並んでいる。
(うん、念のために護身用を持っててもいいかもしれない)
ダルクは目的の品に加え、適当なナイフを手に取った。
その拍子にふと、視界の端に目が引かれる。
顔を向けると、『サラマンドラ(炎の剣)』や『竜殺しの剣』といった大物が厳かに納められていた。
童心をくすぐる猛々しいフォルムと、安定した味わい深い色調。
繊細さと重厚さを並立させている、刀身の圧倒的な質感。
気品を漂わせながらも、紙一重に見え隠れしている覇気。
ついで、値札が如実に示している具体的な価値。
ダルクとて、幾度となく戦士に憧れを抱いた少年。
いま本格的な実物を前にして、幼き日の想い、興奮がじわじわと蘇ってくる。
ああ全く、大剣というものは、ただ静かにそこに在るだけで、なぜここまで心を魅きつけるのだろうか。
「……少年」
すぐ耳元に店主の吐息がかかり、ダルクの心臓は跳ね上がった。
いつの間にか店主はダルクの背後に回っており、そしてダルクの肩に優しく手を置いた。
「武器は、相手を傷つけるためにある。傷つける以上は、傷つけられる覚悟をしなければならない」
「えっ? えっ?」
「だが防具はどうだ。我が身は守っても、別に守られる覚悟、などというものは必要ない」
「あ、あの。ちょっ、放して」
「今ならサービスしよう。バッグラー、篭手、皮の胸当て……君にお似合いのものはいくらでもある」
「か、買います! 買うからこの手を放してくれ!」
ようやく店を出た頃、ダルクは予想外の支出に頭を痛めていた。
何とか目的のものは買えたが、最後のあれさえなければビタ一文余計な出費はなかったのに……。
「いっぱい買ったねっ」
「そんなつもりはなかった……」
ダルクには店主が、あの肩を掴む握力が、地味に強くなっていくのが恐ろしくてたまらなかった。
いきなり力任せに握り締められるのではない。
囁くような口調とともに、じわじわ、じわじわと緩やかに圧力をかけてくるのだ。
「あの怖さは尋常じゃない……」
「ねっ、次は? 次はっ?」
一気に重くなったダルクの身体に、どこまでも楽しそうにライナが追いうちをかける。
ダルクは今日まだ起きたばかりなのにも関わらず、早くも疲労を感じ始めていた。
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