過去ログ - 闇霊使いダルク「恋人か……」
1- 20
817:【1/3】[sage saga]
2011/11/12(土) 16:26:17.20 ID:Sfrte8hBo

 ダルク自前のショルダーバッグは勿論、何かを買ったときにもらった布袋もかなり膨らんでいた。
 相当に重い。これ以上増やすのは帰り道が不安だが、まだ買ってない食材がある。

「次は肉だ」
「おにくっ? ボクのところはあんまり食べないなぁ」
「雲の上で食べられる肉なんてあるのか?」
「あるよっ。鳥のおにくっ!」
「なんか夢がないな」

 ダルク達が訪れた肉屋は、当然ながら獣の肉、魚肉も取り扱っていた。
 生臭い空気。上から吊るされた肉塊の数々。見るからにおどろおどろしい店の雰囲気。
 だがダルクは肉の旨さを知っていた。どこか怖気づくライナを引っ張り、店先に立つダルク。

 店の主人は、やたら等身の小さい、短足ふとっちょの男だった。
 頭部はすっぽり鉄仮面に覆われており、その表情は唯一穴を開けている両目からしか窺えない。
 そのマスクの奥から、「いらっしゃいまゼ!」とくぐもった黄色い声が響いた。
 
「ご主人、ここの肉の日持ちはどのくらいだ?」
 
 ダルクはそれだけが不安で、できるだけ生肉を後回しにしてきた。
 闇の世界の腐った生肉は食べられないだけでなく、最悪アンデッド化することもある。
 
「ふた月み月はもつゼ!」
「そっ、そんなに? 生肉なのに?」
「ヒョウケッカイの仕事ナンダゼ! ガチガチに凍らせてくれるんダゼ!」
 
 確かに店の精肉は、どれも霜まみれに凍りついていた。
 「氷結界」という言葉は、名前くらい聞いたことがある。氷を扱うエリート群だ。
 有名な彼らの手によるものであれば、二三ヶ月もつというのも信憑性があるかもしれない。
 
「お買い得セットもあるゼ! 今なら安くしておくゼ!」

 セットと称された袋には、幾種類のお肉がたんまり入っていた。
 値段は決して安くはなかったが、それぞれ単品で買ったときを概算して比べるとはるかにお得。
 それに「今はとりあえず買い揃える」スタンスのダルクにとっては、これほど丁度良いものもなかった。
 
「まいだリッ!」
「ねぇ行こっ、次いこっ」
「おっおい引っ張るな。どうした急に」
「別にどうもしてないけどっ」
「あ。もしかして怖かったのか? 今の店が」
「そ、そんなんじゃ……もうっ。次いこっ! ほらっ!」
「ぐえ」
 
 
 いつの間にか夕陽は、辛うじて頭の一部分を残すばかりとなっていた。
 ダルクが予定していた買い物も、これが最後。
 締めくくりに選んだ店は、しつこいくらいに周りに香ばしい匂いを漂わせていた憎い食品店。
 すなわちパン屋。

 パン屋は市場のあちこちにあったが、なぜかこの時間帯では早くも店じまいしている所が多かった。
 まだ夕方は終わっていないのに、どこに行っても、パン屋だけくり抜かれたように閉まっている。
 
「な、なぜだ。なぜパン屋だけ…」
「あっ。あそこ、まだ開いてるみたいだよっ」
 
 二人は右往左往しながらも、ようやくまだ営業しているパン屋にたどりついた。
 ところが――。
 
「売り切れ!?」
「一個も余ってないのっ?」
「すまないね。ついさっき完売してしまったよ」
 
 温厚そうな青服青帽のコックが、申し訳なさそうに言った。
 
 肝心の売り物がどこにもない。
 パンが並べられていたであろうプレートには、細かいパンくずが恨めしく散らばっているばかり。
 どの値札にも「SOLD OUT」が上から貼られており、値段も相場も分からない。
 これでは、あれだけ周囲を挑発していた香ばしさの正体が、まるきり分からないまま終わってしまう!
 
「ナ、ナンてことだ……」
「えっ、なにか言ったっ?」
 


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
1002Res/501.68 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice