832:【3/3】[age saga]
2011/11/15(火) 16:23:25.49 ID:JACVr1Iio
「このっ……やめろっ!」
ダルクは少し乱暴気味に荷物を振りほどいた。
その勢いに吹き飛ばされる子供たち。
「痛えなぁ」
「武器!」
「そこのお前」
ダルクはサングラスをかけている方の少年に、人差し指を向けた。
指を差す。その少年に、少年の顔に、顔をしたたり落ちる汗に。
「ついさっき、走ってきたな?」
「なっ!? ななな何のことやぁら」
「気付いていないとでも思ったか? さっき広場でオレたちを観察していただろう」
「ギクリんこ!」
「そんな未熟なレベルじゃ密偵は務まらない、甘く見るな」
大方、ライナが大金を見せびらかしていた場面を見られたのだろう。
広場からずっと尾行していたようだったが、ライトロードが最優先だったのであえて泳がせていた。
ライナのおかげでこういった輩の土俵に来てしまったが、相手が未熟だったのが不幸中の幸いだった。
そして。
この子供たちの真の狙いも、お見通しだった。
なぜ、大金を所持しているライナではなく、真っ先にダルクの荷物へ向かっていったのか。
答えは直後にあった。
「こういう訳だろ!」
「うっ!?」
いつの間にか、ライナのすぐ脇に男がいた。
薄い青髪で、半裸の半ズボンといったラフな格好。
ダルクが一瞬で伸ばした手は、その男の手首をつかんでいた。
男の手に握られていたのは、ライナの大金が詰まっているポーチ。
「えっ? あれっ!? いつの間にっ……」
「子供とグルだったんだ。この二人が囮になって気を引いてる間に、本命をかすめとる」
ライナが今の今まで気付かなかったのも無理はない。
男の方は本職だったようだ。
気配を殺して背後から近づき、獲物は強引に引ったくらずに、一瞬でスリ去っていく。
だが長年を闇の世界で暮らしてきたダルクの目は、到底ごまかせなかった。
「あわわわわレガシーの旦那ぁ」
「武器、武器ぃ」
「ちいっ!」
刹那、男の片手がキラリと光った。
空を切った刃が、ダルクめがけて一閃する。
ダルクはとっさに空いている方の腕で首から上を守り、その一撃をまともに受けた。
「ぐっ!」
これは威嚇のようなもので、ダルクは手を放しさえすれば無傷で済むことを知っていた。
男の目的はあくまでポーチで、危害を加えることは本意ではない。
だがダルクはそれを知っているが故に、つかんだ男の手首を離せなかった。
そのポーチには、ライナの大切なお金が入っている。
これを盗られてしまったら、もうライナは一人でハンバーガーを買うこともできない。
「えっ……?」
ライナはまるで状況の把握が追いついていなかったが、たった今、一つのことだけを理解した。
血が流れた。
斬られた。今まで一緒に買い物をしてきた男の子が、刃物で斬られた――。
気がつけばライナは、周囲に轟くような悲鳴をあげていた。
「く、くそっ!」
「あっ、旦那待って!」
「武器がぁ」
男は状況の不利を感じ取るや否や、即座にポーチを地面に落とした。
それを受けて、ダルクもようやく男の手首を放す。
男は乱暴な仕草でダルク振り払うと、悪態をつきながら子供とともに逃げ出していった。
「はは……盗られなくて、よかった……」
ダルクは男たちの間の抜けた後ろ姿を見届けると、静かに笑った。
そしてそのまま力が抜けたように、音を立てて片ひざから崩れ落ちていった。
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