858:【2/3】[sage saga]
2011/11/19(土) 16:13:25.76 ID:LHJF1CSBo
◆
スラム街の一角。
そこには片ひざをついて屈みこむダルクと、顔色を真っ青にしたライナがいた。
「どうしようっ、どうしようっ……」
ライナは悲鳴をあげた後、傷ついたダルクの傍でひたすらパニックになっていた。
泥棒から自分のポーチを守ってくれた男の子が、いま頭を垂れて肩の辺りを抑えている。
「えとっ……か、回復の光霊術……あっ、先に傷口みないとっ……」
ライナは震える手で杖を取り出し、両手で霊力をこめようとする。
しかしダルクのうなだれる姿、地面に零れた血痕ばかりに目がいき、なかなか集中できない。
「……大丈夫だ」
ダルクは片手をあげてライナの行為を抑制し、それからゆっくりと頭を上げた。
脂汗こそ流れているが、その顔色に至って変化はない。
「防具を買っただろう」
ダルクは一枚コートの中身を少しだけ晒した。
そこには皮の胸当てが仕込まれており、真新しい傷跡が斜めに引かれていた。
あの武具屋の主人に無理矢理買わされたものだが、今回ばかりはこれが功を奏した。
「斬られたのは肩口だけだ。それもかなり浅い。へっちゃらだ」
ダルクはすっくと立ち上がると、何事もなかったかのようにコートの埃をはたいた。
傷の具合を確かめるために少し大仰にひざをついてしまったが、本当に大したことはない。
「本当にっ? ねっ、本当なのっ?」
「大丈夫だって。斬られる瞬間は首から上を守った。胴体は胸当てでフォローしている。完璧だ」
「でっ、でもっ、血がっ……」
「ちょっと大げさに飛んだだけだ。こんなのかすり傷だよ」
もちろん刃物が勢いよく撫でていったのだから、パックリ斬れてはいる。
しかしダルクにとっては、これくらいの傷は慣れっこだった。
闇の世界の訓練ではもっとざっくり斬れたこともあるし、ヘマをして骨折したことも数知れない。
「さ、もう行こう。さっきの悲鳴をライトロードに聞かれたかもしれない」
ダルクはむしろ傷などより、そのことが一番心配だった。
悲鳴は、聞いたものに危険や不安を思わせる。
ライトロードがお目当てのライナの叫びを聞いたとなれば、真っ先に駆けつけてくるはずだ。
男女二人きりの状況的にも、現場を見られると非常にまずい。
いや、そろそろこの辺で別れるべきだろうか?
買い物の目的は達成した。荷物はほとんど無事。
ライナの言う「もう一回りする」というのも、これだけの出来事があれば十分だろう。
ダルクは空を見た。もう日も落ちかかっている。
(頃合かもしれないな……)
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