過去ログ - 闇霊使いダルク「恋人か……」
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882:【3/3】[sage saga]
2011/11/22(火) 16:23:59.65 ID:vBjcwSeqo
 その場の注目を浴びたライラは、パンパンに膨らんだ大きな袋を軽く持ち上げてみせた。
 ダルクが今まで持ち運んでいた荷物だった。
 どうやら彼女は、いざこざの間に勝手にダルクの荷物を漁っていたらしい。
 
「これ、その子の荷物だけど、中身はほとんど食料ばかりで、怪しいアイテムはなかったわ」
「……ふん。隅々まで調べたのか?」
「ええ。なんなら今ここでご開帳しましょうか?」
「結構だ。それにアイテムの有無が、彼が悪事を犯さなかったという証拠にはならない」
「まぁ別に私はどっちだっていいけど」
「ライラ、仮にも君はライトロードだろう。我々の使命を忘れたのか」
「もちろん何も引っかかるものがなかったら、『闇』である以上私もその子を裁くわ」
「ちょっとライラさんまでっ」
「でも、そう」

 ライラは杖先でライナを指し示す。
 
「その子の言い分もあるから……後味の悪い裁断は、乗り気じゃないのよ」

 一連の流れで、ダルクは違和感を覚えていた。
 このライラというライトロードは、基本的には『闇』を裁く姿勢でいながら、自分を助けようとしている。
 口で言っていること自体の理屈は通っているが、荷物を改めたのなら辻褄が合わない。
 
 ダルクの荷物には、武具屋で買ったナイフが入っているのだ。
 包丁や果物ナイフに加え、護身用にと買ったナイフ。
 ダルクの考えすぎかもしれないが、ライナの誘拐疑惑がかけられている中での怪しいアイテムというなら、
 刃渡りがそう短くないナイフは十分憂慮すべき代物なのに――。
 
「ジェインさんっ! この人は町に買い物しに来ただけなのっ!
 何も悪いことなんて企んでないのっ。ただ、ボクが勝手についてきただけでっ」
「……」
「ねっ、ジェインさんお願いっ! 今回だけは……」
「……」
 
 ジェインは表情を変えぬまま身動き一つせず、黙してじっとライナの目を見つめた。
 一度目をつぶり、今度はダルクの方へぎろりと目を向ける。
 ダルクの方も目は逸らさない。口を開かず、ただ睨み返す。

 実質三十秒も経たないほどの膠着だったが、両者の葛藤は悠久の時間を思わせた。
 ――やがて。
 
「ふん」
 
 ジェインの方から時間が動いた。
 苛立たしげに剣を納め、つま先を裏路地の出口へと向ける。
 
「ライナさんに感謝しろ。特例中の特例だ」
「……!」
「ジェインさんっ!」
「ただし」
 
 ジェインは吐き捨てるように言う。
 
「今すぐ町を出ていくことだ。そして今後この町に入ることは許さない。
 次に見かけたときは、地の底まで追ってでも貴様を裁く」
 
 ジェインは靴音高く、路地裏を出ていく。
 慌てて「あ、ちょっとジェイン!」とライラが後を追う。
 一瞬取り残されたかのように思えた霊使いの二人だったが、すぐにジェインの声が飛んできた。
 
「ライナさん。埋め合わせの一環です。すぐに我々のところへ戻ってもらいます」
「えっ?」
「早く。私の気が変わらないうちに」
 
 ライナは憂いを帯びた顔をダルクに向ける。
 ダルクは口元を緩め、「早く行くんだ」と小さく手を上げた。
 ライナは哀しげにうつむき、かすれた声で言う。
 
「また、会える?」
 
 ダルクはそれには答えず、ただ、精一杯の笑みを送った。
 ライナはその微笑に、胸の底を抉られるような切なさを覚えた。
 今ここで別れたらきっと後悔してしまう。そんな気がしてならない。
 
「じゃあな!」
「あっ待っ――」
 
 つかの間にダルクは荷物を拾い上げ、全力で反対方向へ駆け出した。
 荷物の重みも肩の痛みも忘れ、あらん限りの力を振り絞って疾走する。
 ライナが追ってこれないように、右へ左へ折れ曲がり、町の外まで、一直線に……。
 
 以上が、ダルクが初めての町で体験した全てだった。


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