922:>>882〜【1/2】[sage saga]
2011/11/25(金) 20:43:37.80 ID:E/AE/g2Bo
――――
ダルクはようやく自分の家にたどり着いた。
町からの長い距離を、重い荷を負っての徒歩だったので、ところどころ休憩を挟んでの帰宅だった。
したがって時刻はすでに真夜中を折り返していた。
ダルクにとっては、あまり活動時間は残されていない。
家に戻ってきたダルクは、まず使い魔のディーを外に放った。
家回りの張り番を任せる前提で、ストレスが溜まらないように行動を自由にさせる。
しかし宙をパタパタ飛んでいくディーの動きはいつもより鈍く、やはり疲労が溜まっているようだった。
「ゆっくり休むんだぞ」
ダルクは家の中に入って一呼吸おくと、わんさかある荷物に手をつけ始めた。
バカみたいに膨らんでいる袋の中身を上から順に取り出し、家の中の然るべき場所へ置いていく。
台所には取っ手のついた床板があり、蓋を開くとそう狭くない食料庫がある。
ダルクはそこに今日買った食料をまとめてつっこみ、適当に整理した。
ついでに台所には、調理器具もしまっておく。
――自分もエリアのように、美味しいスープが作れるだろうか。
居間に少し大きめのガラスの棚があるので、これを食器棚とし、コップや皿を入れる。
棚の中の板を隔てた空間に、ポーションなどの小瓶の飲みものをまとめて並べておく。
――これでいつウィンがやって来ても、すぐに飲みものを出せる。
護身用のナイフと防具は、杖やコートと同じように比較的玄関に近いところに置く。
たちどころに物々しくなってしまったが、その分戦士っぽくて悪くない。
――しかしヒータを相手に肉弾戦をこなすには頼りないな。
インクや羽根ペンは、本棚付近の勉強机に置く。
さらに白紙を添えて机についてみると、一気に研究者の気分になった。
――もっともアウスにとっては、もはや生活に染みついている感覚かもしれない。
やっと全ての片づけが終わり、ダルクは大きな息をつきながらベッドに倒れこんだ。
ずきりと肩口に痛みが走る。刃に切り裂かれ、光の術をまともに受けたところだ。
今回は『闇のペンダント』のおかげで助かったが、より強力な光の魔法を受けたら対処しきれる自信はない。
――ライナには、もう会わない方がいいだろう。お互いのためにも。
ダルクはベッドの上で、仰向けにごろんと転がった。
この四、五日で、外の世界がどういうところか随分と分かってきた気がする。
自分がこれまで生きてきた闇と世界と比べると、なによりも平和だ。
気立てのいい人が多く、無意味な争いが頻繁に起こる様子もない。
あの血気盛んな猛者が集まるバーニング・ブラッドでさえも、見事な調和が保たれていた。
この安心感に満ちた環境は、今までのダルクの常識ではあまり考えられないものだった。
だがその分、安穏としすぎている。
特に町を行き交う人々のほとんどは、「自分が痛い目に遭うはずがない」とばかりに油断しきっていた。
まるで羊トークンの群れだ。牙を持てとは言わないが、せめて守備には徹するべきだろう。
確かに町のスラム街に物盗りはいたが、闇の世界だとあのレベルでは子供だましにもならない。
個々の腕力の問題ではない、本気で物を盗ろうとする心構えを指しているのだ。
闇の世界の住人たちは本能の赴くままにそれを成すから、そもそも心構えなどは――
「――ああ、そうか」
だからライトロードのような集団があるのか。
『闇』のモンスターたちの多くは今ダルクが考えたように、こちらの世界の住人と元々の思考が異なる。
それら罪科の芽を片っ端から排除、淘汰していけば、残るものは羊の群れ、平穏な秩序というわけだ。
しかしやり方が極端すぎる。
『闇』属性の中にも、理性に満ちた識者、徳をわきまえる理解者、争いを好まない平和主義者がいる。
その全てを黒に決めつけて裁こうとするのは納得がいかないし、また驕りが過ぎるというものだ。
外の世界にも、その思想を好まない者はいるだろうに――。
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