過去ログ - 一方通行「打ち止めが高校に入学すンだが……」
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507:101[sage saga]
2011/08/31(水) 23:47:52.26 ID:eQlKx8pF0

 ハーブティーの準備をしていたら、リビングにいたはずのあの人がすっとキッチンに現れた。
 今ではリハビリの成果か体力がついたことの成果かなんなのか、家の中程度の極々短距離の移動なら杖を使わなくても大丈夫な状況になっている。馴染んだ杖の音を立てずに移動するあの人は、ゆっくりとした歩幅で歩く。

「どうしたの?」

「別に」

 ダイニングセットの椅子に座って、準備するこちらの手元を見るともなしに見ているあの人に、ぐっすりと眠れるようにと何もない夜はコーヒーではなくハーブティーを出すようになったのは数年前から。そういったものに慣れない様子だったあの人の習慣の座を今では射止めている。

「さっきね、ゆーちゃんにその絵本読んでたでしょ?」

 片付けずに持ってきた本が、ちょこんとあの人の手元に放り出されている。表紙もタイトルも懐かしい。

「いつものことじゃねェかよ」

「その本、ミサカにも昔読んでくれたのなんだよ。覚えてる?」

「……そォだったかァ?」

「病院でね。ミサカはあなたが絵本を読んでくれるの、大好きだったよ」

「…あっそ」

 いつもの乱雑な口調ではない丁寧な音読は、耳に心地よいものだった。声のトーンや質も、それまでネットワークを介して得ていた情報とは違って、柔らかさのあるものだった。
 それがとても優しく響いて、あの人が自分のために絵本を読んでくれる時間は、大好きな時間だった。
 
「あっちもこの本が好きっつってたけど、母親に似たのか」

「そして母親に似たからあなたの読み聞かせが大好きなのです、ってミサカはミサカは指摘してみたり」

 ハーブティをテーブルに置くと、ずずずと椅子を移動させてあの人の椅子にくっつくように並べて、座るとそのままぺたりとひっついた。

「何だよ」

「絵本読んで」

「……」

 呆れた視線を寄こすあの人の内心は、何となく想像がつく。呆れと照れが入り交じった、何とも言えないものだろう。

「ンなもン自分で勝手に読ンでろ」

「ミサカはあなたに読んでもらうのが好きなんだもんー。たまには良いでしょ?」

 この手のおねだりに根負けしてくれるのは、いつだってあの人。片手で絵本を取り、もう片手で引き寄せてくるあの人の肩口に頬をすり寄せる。

「顔緩み過ぎだろ…」

「えへへ、あなたに愛されてミサカは幸せ者です」

「……今更かつお互い様だろ、ばァか」


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