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623:芳川と少年[sage]
2011/04/15(金) 21:40:26.91 ID:4ferLsKw0
ソファに一人の少年が眠っている。
髪の毛も肌も白い、弱弱しげな少年。
私は彼のことを知っている。
彼の能力の有効範囲を、応用範囲を、威力を、実験体としての利用価値を。
彼のことを知っている？
彼の能力のことを知っている。
彼は、彼自身は…彼の本名は、彼の趣味は、彼の友達は、彼の笑顔は―――。
私は、彼のことを何も知らない。
彼が目を開いた。
彼は口を開いた。
彼が何と言ったか、私はずっと知っていた。

目が覚めると、私はソファに座っていた。
タオルケットがかけられている。
大方黄泉川の仕業だろう。
彼女の前では、私もあの子達も変わらないに違いない。

「よォ。目は覚めたかよ。ったく、ンなところで寝てンじゃねェ。良い大人がみっともねェ」

一方通行が、コーヒーを持ってやってくる。
気がきくじゃないと言おうとした矢先、彼はそれを静かに飲み始めた。
ふんだ。
寝起きでコーヒーなんて飲まないし。

「いいじゃない。寝室もここも変わんないわよ。仕事場ではいつもこんな感じだったわ」

「だから嫁の貰い手もいねェんだよ」

「相変わらずデレの欠片もないわね」

「訳わかんねェこと言ってンじゃねェよ」

「ところで、あの三人は？」

「買い物、だそォだ。番外個体の服を買うって息巻いてたぜ」

「あら、あなたは行かないの？　服とか好きじゃないの」

「女ばっかの買い物になンて付き合ってられるかよ。奴らときたら平気で人を二時間も三時間も待たせやがる」

「振り回されてやるのが男ってものよ」

「そンなのは三下のやることだァ」

「あなたったら相変わらずね…ん？　黄泉川が出かけてるのなら、このタオルケットは誰が掛けてくれたの？」

「…悪ィかよ」

「ふうん、あなたが、ねえ」

「チッ」

そっぽを向く一方通行。
その素振りはあの時と少しも変わらない。
彼はいつでも意地っ張りで、恥ずかしがりやで、臆病で。
けれど彼は、少し変わった。

「ありがとう」

「どォいたしましてェ」

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