358:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[saga]
2010/12/21(火) 18:56:32.00 ID:mFjspvM0
第十四話
ギレン「ジオン公国の栄誉たる国民一人ひとりに問いたい!」
演壇に立った痩躯の男は重いバリトンで吼えた。
ギレン「諸君らの父が、友人が、恋人たちが死してすでに幾月が流れたか、思い起こすことを忘れたわけではないと信ずる。しかし、ルウム戦役以後、諸君らはあまりにも自堕落に時を過ごしてはいないだろうか? 地球連邦軍の物量と強権の前に、屈服も良し、とする心根が芽生えてはいないだろうか? なぜ、そのように思うのか? 選ばれた国民であるはずの、諸君らが、なぜに地球連邦軍の軟弱に屈服しようとするのか?我、ジオンの創業の闘士、ジオン・ズム・ダイクンは、我らに言い残したではないか!」
右手で固い拳を握る高貴な装いのギレン・ザビの頭上に陰影を落とすのは、つい二日前に訃報が届いた貴公子の肖像だった。
ガルマ・ザビ――連邦軍と戦い、壮絶な戦死を遂げた彼をジオン公国の首都ズムシティは悲しみに泣いていた。
五日前に届いたビデオレターで彼はこう言った。
『親の七光りで将軍だ、元帥だと国民に笑われたくはありませんからね。父上もご辛抱ください。必ずや、大きな戦果を私自身の手で収め、将軍として立って見せます』
ザービ! ザービ! ザァービ! ザーァービ!!
ガルマの死を、家族の死と重ねたジオン国民のコールを思い出す。ここにいるだけでも二十万。コロニー全体ならば二千万人はいたはずだ。
デギン(この世論があれば、ギレンを倒せたのではないか……?)
公王として玉座に座るデギン・ソド・ザビが演壇で拳を震わせる背中に鈍く目を光らせた。
デギンを玉座の奥に追いやり、実質的な独裁政治の頂点に立ったギレンを抑えるには、ガルマの存在は必要不可欠だった。
国民の人気を一身に受け止め、父想いの彼ならばギレン以上の、いやジオン100年を繁栄させる男になっていたことだろう。
ギレン「宇宙の民が地球を見守り、その地球を人間発祥の地とすべき時代に、地球を離れることを阻む旧世代が、宇宙の民たる我らを管理支配しようとする。宇宙の広大無比なるものは、人類の認識域を拡大して、我らは旧世代との決別を教えられた。その新しき民である我らが、旧世代の管理下におかれて、何を全うしようというのか? 我らこそ、旧世代を排除し、地球を聖地として守り、人類の繁栄を永遠に導かねばならないのだ。銀河辺地にあるこの太陽系にあっても、文明という灯を守り続けなければならない。これが、ジオンの創業の志であったことは、周知である。にもかかわらず、諸君らは、肉親の死と生活の苦しさに、旧世代に屈服しようとしている。ジオン創業の時代を思い起こしたまえ! 地球よりもっとも離れたこの新天地、サイド3こそ、諸君らの父母が選んだ、真に選ばれた人類の発祥の地であることを思い起こせ! ジオン・ズム・ダイクンのあの烈々たる演説『新人類たちへ』を知らない者はいない! 思い起こせよ! 我らジオン公国の国民こそ、人類を永遠に守り伝える真の人類である……!」
だが、現実としてガルマは死に、聴衆はギレンの演説に心酔している。弟の死は悲しむべきだが、それすらも陰謀と化すギレンは大きく右手で聴衆に手を広げる最中であくまでもさりげなく、デギンを睨んだ。
ギレンにとって、父デギンはもはや汚物にも等しい存在なのだった。むしろ人間であるからこそ厄介である。聞けばダルシア首相と密談を交わしているという。
今日がガルマではなく、デギンの葬式であれば、事はもっと容易にギレンの好むほうに転んでいたはずだ。
ギレン「何の洞察力も持たない地球連邦の旧世代に人類の未来を委ねては、人類の存続はあり得ないのである。ただただ絶対民主主義、絶対議会主義による統治が、人類の平和と幸福を生むという不定見! その結果が、凡百の無能者と人口の増大だけを生み出してゆくのである。その帰結する処は何か? 無能な種族の無尽蔵な増加は、自然を破壊し宇宙を汚すだけで、何ら文明の英知を生み出しはしない! 種族の数が巨大になり、自然の体系の中で異常と認められるに至ったときは、鼠であろうと蝗であろうと集団自殺をして自然淘汰に身を任せてゆく本能を持ち合わせている。これは、生物が自然界に対して示すことのできる唯一の美徳である」
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