607:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2011/02/24(木) 18:33:46.77 ID:Li68PeD/0
長門「…………」
目の前にいる自分と同年代だという二人の顔に疲労がたまっているのがわかる。
それでも集中しているのは、ただの人間としてはやるようだった。
長門有希は、もう72534回目になる情報統合思念体とのアクセスを試みていた。
答えは――NEGATIVE――彼女の体感時間で392日の間、創造主とのコンタクトが取れなくなってしまっていた。
392日前――それまで彼女は確かに地球の高等学校に通っていた。
暦は西暦だった。人類は月に小さな建物を作るのがやっとという文明レベル。
だが、ある朝、彼女が目を覚ました場所は月だった。完成されたテラフォーミング都市。
すぐに情報統合思念体とのアクセスを試みた。しかし、遮断されていて何も出来なかった。
次に自分の能力についてスキャンした。思念体と直結している時に可能な能力以外は全て使用できる。
部屋を出て、見知った顔に出会えたことにまず安心した。
ただ、それは今までの記憶を持った人たちではなかった。まるで、この世界に最初から住んでいたような……
そして、驚愕はそれだけではなかった。
涼宮ハルヒの能力もほとんどが失われてしまっていた。
また、周囲の人間たちも涼宮ハルヒの力について言及することはなかった。
思念体にアクセスできない以上、自分で推測するしかない。自分だけが移動したのか、時空自体が変わってしまったのか。
結局、確認する術がなかった彼女は、本来の任務にしたがって行動することにした。
守るべき人を守る。それだけ。
長門「私には、他に何もないから」
ぽつりと呟いた言葉は、誰の耳にも届いてはいなかった。
部屋の扉が開いた。短い黒髪にパイロットスーツの上から漆黒のマントを羽織った女。自分を捕らえた女だ。
霙「君の隊長からの提案だ。こちらのマチルダ・アジャン中尉との捕虜交換だ」
長門「……そう」
小鳥の囀りのような返事をすると、ヒカルとスズがぐったりと肩の緊張を解いた。
ヒカル「結局、何も話してはくれなかったな。君の部隊は我々と同年代だと聞いていたから、話を聞きたかったのだが」
長門「…………」
スズ「ちょっとー! うんとかすんとかくらい言ったらどうなの!?」
長門「……そう」
とうとう耐えかねて両手を振りかざしたスズの襟を長門が掴んで引き寄せた。
スズ「ちょ、ちょっ……何よ……」
長門「黙って」
銅色の瞳がスズを正面から捉えている。浮いた経験の皆無なスズは脈拍の上昇を押さえつけていると、長門はすっと襟から手を放した。
長門「私は監視されている」
スズとヒカルに背を向けた長門は霙に連れられてすたすたと部屋を出て行った。
呆然としていたスズを窺っていたヒカルが何かに気づいて指さした。
ヒカル「スズ、襟に何かついている」
スズ「えっ?」
グレーを基調にした連邦服の襟が黒ずんでいた。いや、何かが書かれているようだ。
ヒカル「こ、これは……っ!」
スズ「な、何よ!?」
胸元に顔を近づけたヒカルの真剣な顔つきが恥ずかしくなって、スズは慌てて制服を脱いだ。
机の上に広げると、そこにはこう書いてあった。
『涼宮ハルヒは脅迫されている』
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