過去ログ - 番外個体「――ただいま、帰ったよ」
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656: ◆3vMMlAilaQ[saga]
2011/02/06(日) 22:46:34.15 ID:3wCZGTLdo


誰かがいなくなってしまったあとの静寂とは形容し難い物悲しさがある。
働け働けと口を酸っぱくして言う黄泉川愛穂もいなければ、屈託なく笑う最終信号もいない。

そして、真っ白な少年までも。


「……あの子の為に言ったんじゃない。本当に、何処までも自分に甘い人間だわ」


『何か』を誤魔化すために、形だけでもと縋ったのは、そう、自分だったのだ。
甘美に巧みに誘惑したのは、何者でもなく自分の為だったのだ。


「振られてしまったのね、わたし」


それも、あの子の気付かないうちに、あの子の無意識で。

芳川桔梗とは、十分に魅力のある女だ。そろそろ三十路だというのに化粧っ気もなく、それでいて色気がある。
そんな彼女だから周りの男だって放っておかなかったし、恋愛経験だってそれなりにあるものの。

今感じるこの痛みだけは、きっとこれからも、慣れる事なんてなく。


「あ、もしもし愛穂? 飲みに行きましょう」

『何言ってるじゃん、いきなり。それより今打ち止めとファミレスいるからもう少し帰り遅くなるじゃん。
 コンビニで何か買ってくから安心するじゃん』

「……、」


何だか無性に、泣きたくなってきた。



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