17:こーじろう侍[sage]
2010/11/25(木) 05:21:04.27 ID:PWoHFWY0
「うん、判ったよ澪姉、約束するこの事は誰にも言わない。でも、それで肝心の出発日は何時になるの?」
「正直に言って、正確な日時はまだ分からないんだ。今日明日って事はないとは思うけど・・・」
「そっか・・・じゃあ入隊の日が決まったらすぐに教えて。俺もそうだけど、姉ちゃんや軽音部の人たちもちゃんと送り出したいだろうから、みんなで送行会をやろう」
18:こーじろう侍[sage]
2010/11/25(木) 05:22:52.23 ID:PWoHFWY0
「でも、思ったより澪姉は強いね」
「私が、強い?」
19:こーじろう侍[sage]
2010/11/25(木) 05:27:41.17 ID:PWoHFWY0
澪姉を自宅に送り届けると、辺りはもうすっかり暗くなっていた。その空の下、自転車に乗って帰る途中ふと、澪姉の両親の事が頭に浮かんだ。おじさんやおばさんは今どんな思いでいるのだろうか。特におばさんは澪姉の事をすごく可愛がっているみたいだから悲嘆に暮れているのではないか、とか。そんな事を考えている内に家に着くと姉ちゃんは既に家に帰っていてリビングで寝っ転がりながらテレビを視ていた。こんなんで受験大丈夫かなどと思うが、夜は机に向かっている様だし、何だかんだで高校受験の時に無理目と言われていた桜ケ丘にもちゃっかり受かっているのだから、まぁ大丈夫なんだろう・・・・・・と、思う。・・・多分・・・。
澪姉があの事を姉ちゃんに言っていないのはこの事もあると思う。小学校からの仲で、高校、大学まで同じ学校に通おうとする程の親友が、突然、宇宙の彼方に行ってしまうなんて知ったら、もう受験どころではないだろうから。
20:こーじろう侍[sage]
2010/11/25(木) 05:30:15.00 ID:PWoHFWY0
その後、夕食を済ませて自室に入った。その途端に、澪姉が、大好きな彼女が遠くに行ってしまうという事実が実感として込み上がってきた。さっきまでは大丈夫だったのに、今頃になって、急に云い様のない不安感と喪失感に襲われ、胸が苦しくなり心と身体が震えてくる。俺でさえこうなのに当事者である澪姉の心苦はこんなものではないに決まっている。あのちょっと怖い話や映像を見たリ聞いたりするだけで、耳を塞ぎ目を瞑りしゃがみ込んでブルブルと震えていた澪姉があんなにも気丈にいて・・・いや、気丈なフリをしていたんだ。そんなことにも気付かないなんて俺は馬鹿だ。これじゃあ何時まで経っても<澪姉の弟>のままじゃないか・・・。もっとかけるべき言葉は無かったのか、出来る事は無かったのか?。俺は別れ際で見せたあの笑顔を思い出すと胸が掻き毟られる思いがした。
だが、未だ入隊の日が知らされていないのなら、まだ当分先の話なのだろう。年越え、いや、もしかしたら年度を越えるのかもしれない。ならその間に何かをしてあげればいいのではないか。
今はそう思い込む事で、俺はどうにか精神(こころ)を鎮める事が出来た。
21:こーじろう侍[sage]
2010/11/25(木) 05:32:06.13 ID:PWoHFWY0
次の日、俺は澪姉にさっそくメールを送ってみたのだが何時まで経っても返ってこなかった。電話をしても繋がらない。嫌な予感がして、俺は澪姉の家に直接尋ねようと思ったが、へタレな俺は情けない事に、事実を知るのが怖くて行けなかった。姉ちゃんも訝しげに思って俺が止めるのも聞かずに秋山宅に行ったようだが、どうやらおばさんに、はぐらかされた様だった。
その澪姉から、突然のメールが届いたのは最後に逢ってから一週間後。発信先は月軌道上のリシティア号の艦内からだった・・・。
22:こーじろう侍[sage]
2010/11/25(木) 05:37:50.22 ID:PWoHFWY0
2012年4月
3,2,1、・・・0!発射!
23:こーじろう侍[sage]
2010/11/25(木) 05:39:52.73 ID:PWoHFWY0
<やっぱり実践方式だと難しいな・・・>
訓練が終了して、私は火星基地内のシャワー室でシャワーを浴びながら溜息交じりに心の中で呟く。
ここに来る前の月面基地ではコンピューターでのシミュレーションも何度もこなしたし、実際にトレーサーを起動させて、基本動作も習得し、シミュレーションでもそれなりの結果を出す事が出来るようになった。けど、やはり仮想とはいえ実際に敵がいる中での戦闘は勝手が違っていた。今回の訓練では三体中二体に命中させられたものの、こちらの武器はミサイルだけだったとはいえ、仮想タルシアンは武装なし反撃なし回避のみという条件だったにもかかわらず、やっぱりシミュレーションの様にはいかなかった。
24:こーじろう侍[sage]
2010/11/25(木) 05:41:16.07 ID:PWoHFWY0
食堂には既にたくさんの人がいた。テーブルには私と同じくらいの女の子達が、既に食事を終えてお喋りをしていたり、黙々とケータイをいじっていたり思い思いの食事の時間を過ごしていた。私は殆ど学食で食事をした事が無かったので、女子校の学食はこんな感じなんだろうな、と、ふと思った。
私は支給されたIDカードをセンサーにかざし、カウンターから食事を載せたトレーを受け取るときょろきょろと食堂を見回す。
「秋山さんっ、こっち、こっちよ!」
25:こーじろう侍[sage]
2010/11/25(木) 05:45:18.36 ID:PWoHFWY0
曽我部恵先輩。彼女は桜ケ丘高校の一つ上だった先輩で、和の先代の生徒会長だった人だ。明るい茶色のロングの髪、つり目気味で、理知的なすっとした顔立ちは、私の一つ上とは思えない程、きれいで大人びた印象を受けた。今は、私の志望校だった女子大の学生で、休学して選抜調査隊に入隊している。
あの和にして、聡明な印象(イメージ)を抱く程の人ではあるが、何故か文化祭で私たちのライブを観て私をいたく気に入ったらしく、私のファンクラブを立ち上げた挙句、卒業が近づくと、別れるのが名残惜しいからと、私にストーカーまがいの事をする様な人なのだった(ちなみに後任のファンクラブの会長を和に押しつけている)。
だけど、そのお陰で右も左も判らない、知り合いもいないと思われたクルーの中で声を掛けてくれた事は、人見知りの私にとって本当に有り難い事でとても感謝をしている。
26:こーじろう侍[sage]
2010/11/25(木) 05:47:58.57 ID:PWoHFWY0
「いただきます」
今日の夕食(火星に朝、昼、夜があるのかはよく判らないが)は御飯に豆腐のお味噌汁、里芋の味噌和えに金平ごぼう、といった紛う事なき和食の献立だった。火星基地(ここ)での食事は和食が多かった。リシティアの乗組員(クルー)約百三十人の内の大半は日本人(私や曽我部先輩の様な選抜トレーサー組みは百人全員)だからかな。そして、トレーサー乗り百人は全員女性だった。
27:こーじろう侍[sage]
2010/11/25(木) 05:51:02.89 ID:PWoHFWY0
「うん、やっぱりここの野菜はおいしいわね、最初、純火星産で水耕栽培って聞いてどうかと思ったけど、やっぱり技術の進歩って凄いわね。もしかしたら有機野菜より美味しいかもしれない」
里芋を箸でつまみながら、曽我部先輩は感嘆の声を上げる。
確かに食事はおいしかった。でもお菓子やデザートの類はあるにはあるのだが、正直に言ってそんなに美味しくは感じられなかった。やっぱりお菓子に関しては軽音部で食べていた、ムギの持って来るお菓子に舌が慣れてしまったのだろうか。ふとムギのお菓子が食べたくなると同時に、あのほんわかした雰囲気の少女の顔を思い出す。とは言ってもちょくちょくメールのやり取りをしているのだが、彼女たちと会えない時間と距離が私を少し感傷的にさせた。
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