過去ログ - 上条「まきますか? まきませんか?」
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412:上条と真紅 ◆zEntDqWLlc[sage saga]
2010/12/19(日) 23:48:55.51 ID:fZ7VQz2o



「っ……」

 暗い部屋。

 差し込もうとする朝日すら分厚いカーテンで遮った部屋の中で、水銀燈はギリリと歯を鳴らして身を起こした。

 長い銀髪が、重力に従って、パラリと垂れる。

 だが彼女はそれを掻き揚げることもせず、どさりと倒れ込むようにして、己の背後にある壁に背を預けた。

「くっ、はっ……」

 翼によって直接背中が壁に当たらないよう身を支え、さらに自らを包み込む。

 その様は、傷ついた鳥が身体を休ませているようだった。

「あの人間め……絶対に許さない……!」

 ギリ、と再び奥歯が音をたてる。

 事実、水銀燈は身を休ませていた。

 薄暗闇ゆえに見えにくいだけで、彼女の纏うドレスはあちこちが破れ、銀髪も所々焼けて焦げてしまっていた。人を模した、しかし絶対に人ではなしえない陶器のような肌も、煤に汚れている。

「くっ…」

 力をこめた拍子に傷が痛み、顔をしかめる水銀燈。

 目を閉じ、顔を上向ける。荒い呼吸をしている自覚があった。

 傷ついた翼はうまく畳むことが出来ず、鞄に入ることができない。回復として最適の手段を使えない水銀燈は、ただ床に転がるしかないのである。

 いま水銀燈がいるのは、もう使われていないビルの一室だった。

 ここは、かつては多くの人員を収めたところだったのかもしれないが、何時ごろに閉鎖されたのか、完全に廃墟と言っていい状態だ。

 長机やイスはてんでばらばらに放置され、うっすらと埃をかぶっている。

 周囲の窓ガラスは内側に黒いカーテンが引かれ、時刻は朝だというのに、薄闇以上に暗い。

 何かが当たったのか、それとも何かの能力の余波なのか、窓ガラスが一箇所だけ割れ落ち、そこから差し込む陽光だけが唯一の光源らしい光源だろう。

 僅かな風に舞う埃が、光の道筋を作っていた。


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