過去ログ - 御坂「名前を呼んで
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45:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]
2011/01/09(日) 15:19:05.91 ID:ebftp9go
「――――」

暖かく、湿った、ざらりとした感触。本当に小さな舌が指先に触れた。

私の躊躇とか葛藤とかそんな面倒な事を全部突き抜けて、彼女の方から私に触れてきた。

言い表しようのない喜びが溢れる。ともすれば涙が溢れてしまいそうだった。
指先を子猫に舐められたという、本当に、たったそれだけの事なのに私はかつてないほどに感動していた。
自分でもどうしてそんな事になってしまったのか分からないけど、ただただ心が打ち震えていた。

そんな事さえも彼女には関係ないのか、まったく気にせぬ素振りで私の右手に体を摺り寄せてくる。
ふわふわとした毛並みが擦り付けられ、くすぐったい感触が手をなぞった。

ぴくりと指先が小さく跳ねた。
それに反応するように彼女は、どんな感情を伴っているのか、じっと動きを止め私の手を見詰める。
隣のアイツからも同じように私に向けられた視線を感じながら私はゆっくりと手を動かし――恐る恐る彼女の頭をなでた。

その時の私の感情は言葉では形容し難い。
いや、自分でもよく分かっていなかったのだ。どこか呆然と、無感情な調子で私の指は毛並みをなぞる。
滑らかで心地よい感触。生き物の発する温もり。そして――小さく伝わってくる、鼓動。
こうしてようやく私は確かな実感と共にぬいぐるみみたいな小さな存在が生き物だと確信した。

「――あったかい」

思わずそう声に出してしまった。

「そうか。うん。……よかったな」

――もしかしたらアイツはとんでもなく無欲な人間なのかもしれない。いや、ある意味ではとても貪欲なのかもしれない。
ただそれは自分ではなく他者によるもので……誰かのためにならアイツはキセキみたいな事を簡単に起こしてしまう。そんな気さえした。

小さく呟く私を見てアイツは顔を綻ばせ、目を細めた彼女が小さく鳴いた。

私は彼女をゆっくりとなでながら気持ち良さそうに目を細める姿から視線を逸らせずにいた。

でも。彼女には悪いけど意識は全然違う方を向いていて。

私はさっきからずっと隣にある優しげな微笑みと手に伝わってくる温もりにどきどきしっぱなしなのだった。


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