570:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2011/04/16(土) 15:12:53.79 ID:ysMFY1nFo
「……」
浜面は無言で査楽を見返したまま、腕に抱いていた滝壺をそっと降ろす。
「背後に回られないように、ですか。確かに私の出現位置が決まっている以上そのポジションは安全でしょうね」
浜面はスイッチや計器の並ぶ操作盤を背に立つ。
滝壺を胸に抱くように。彼女もまた査楽に向いて――背を浜面に預け立っている。
「いやはや、まんまとしてやられましたよ。まさか無能力者を相手にここまで苦戦するとは。
瞬時に私の能力を見抜き、対策を講じ、裏を掻いた。能力に対処した上でこちらの足を傷付け機動力を失わせる。
……結果ここまで逃げおおせた。敵ながら天晴れと言うべきでしょうか」
口調こそ軽いまま捲くし立てているものの査楽の表情は硬い。
その言葉は恐らく浜面に対してのものではない。
彼自身のプライドを守るために何だかんだと理由をつけて納得しようとしているだけだろう。
浜面を無能力者と吐き捨てた彼が納得できるはずもないのだが、そう思い込もうとする事で自己を保とうとしているに過ぎない。
「……しかし。ここでチェックメイトです」
細身の鋸を構えなおし査楽は、右足を引き摺るようにして、ゆっくりと浜面と滝壺へと近付いてくる。
「まさかオマエ、高位能力者の優等生が泥臭い殴り合いで俺みたいなチンピラに勝てると思ってるのか」
「……まさか。ええ、まさか。そんな事思ってるはずがないでしょう?」
浜面の挑発するような言葉に査楽は一瞬表情を引きつらせるが、それには乗らないとばかりに笑みを向ける。
「能力に頼りすぎましたね。我ながら汗顔の至りです。ここまでいいようにされるとは」
そう言って査楽は右足を庇うようにしゃがみ込み、足元に散らばっていた残骸の中から黒い塊を抓み上げる。
「っ――」
背に嫌な寒気が走る。
「やっぱりここは単純に、文明の利器に頼る事にしましょう」
意図して辺りの様子から目を逸らしていたがために見落とした。
査楽の手にしたのは――ありふれた人殺しの兵器。
どこにでもあるような、何の変哲もない拳銃だった。
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