642:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2011/05/09(月) 20:42:18.93 ID:Cu0QJs/Co
「しまっ――」
査楽の腕に反射的に再び力が込められる。
だが浜面はそれに逆らわず、むしろ引き寄せた。
どころか迎え撃つ。
無手の、無能力者の浜面だろうと、生身に備わった武器がある。
首を動かし、引き寄せ、査楽の手に噛み付いた。
顎ほど強い力を発するものはない。
親指の付け根辺りを捕らえた浜面の歯は手加減無しにそのまま肉を食い千切る。
「――――――!!」
絶叫が響いた。
地にしっかりと付いた足に力を込め、浜面は査楽を背で弾き飛ばす。
抵抗もなく床を転がる査楽。束縛から逃れた浜面は肉片を吐き捨てる。
べちゃりと湿った音を立てて床に貼り付いたそれを一瞥すらせず乱れた呼吸を繰り返しながらも滝壺を抱き起こした。
「滝壺っ!」
腕に抱いた少女は、両目から赤い涙を流していた。
能力の限度を超えた強引な発動に耐えかねた毛細血管が爆ぜ流血を起こしていた。
「はまづら――」
掠れるような声で滝壺は彼を呼び、力の入らない手で彼のシャツの胸元を握る。
その血涙に濡れた顔を見て浜面ははっとなる。
彼女は笑っていた。
全身が脱力しきったあまりに痛ましい様相だというのに彼女は笑顔を浮かべていた。
そして彼女は誇らしげに言うのだ。
「私だって、やればできるんだから」
――ああ、そうだな。
頷いて、彼女を抱きしめた。
自分が守るしかないと思っていた非力な少女。
そんな彼女が力を振り絞って査楽に一矢酬い浜面を助けてみせた。
無能の少年と非力の少女。
その二人が局面を逆転させた。
ならば今この場、どう転んだって負ける気はしない。
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