798:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)[sagesaga]
2011/11/12(土) 21:55:12.79 ID:G0JKgipto
>>725
降り注ぐ紫外線は細胞の一つ一つをまんべんなく刺激する。
それによって傷ついた細胞はしわしみの原因となり、また癌へと発展する恐れを含んでいる。
したがってそれをすすんで浴びようとする者はよほどの酔狂かもっと言えば馬鹿であると考えられる。
かわいそうに、心を病んでまともな判断ができないのかもしれない。
つまり、と俺は静かに断定した。
「ここにいるのは救いようのない阿呆ばかりということだな」
「はあ?」
隣の友人が呆けた声を出した。高校での俺の数少ない友人の一人だが、彼を無視して俺は周りを見渡した。
海である。太陽は容赦することなくその緩やかかつ激しい殺人光線を投げかけており、白い砂はそれを反射してさらに人体を蝕もうとする。
砂浜に集う愚かな人々は気付かない。自分が緩やかに死に向かっているなどとは。
だが、自分もまた同類であることを認めざるを得なかった。
なぜならしかるべき装備を身につけず、愚民と同じく半裸で殺人光線を浴びているのだから。
「皮肉だ……」
「何がだよ」
せわしなく周りを見回しながら友人が応じる。彼は一通り周りの人々、特に女性について観察を終えると、こちらに向き直った。
「健一、お前ここに来た理由を忘れているんじゃないだろうな?」
俺は頷く。覚えている。
「お前に協力すれば新たな境地にたどり着ける、だったな?」
「黙ってればイケメンなのによ……」
友人はため息をついて、こちらに手を振った。「とにかく行くぞ」だそうだ。
彼の後について歩きだしながらここへ来た理由を思い出した。俺は自身を高めるためのメソッドとしてここにいる。
友人曰く、男性の対極にいる女性という存在との積極的な関わりを持つことにより、自身の存在を昇華させるとのことだ。
俗な言い方をすれば「ナンパ」と言うらしい。
「ほら、行け!」
友人に押し出されて一人の少女の前につんのめった。実のところ気は進まなかったのだが、これも修練の一つだ。
俺は口を開いた。
「君、俺と新たな次元に――」
そこで息を詰まらせた。目の前の少女に見覚えがあったからだ。
「あ、けんちゃ――」
「初めましてマドモアゼル。あなたにお会いできて光栄です!」
俺の名前を呼ぼうとした"俺の従妹"を、言葉で強引にやりこめる。
驚いて目を瞬かせる彼女にさらに言葉を重ねた。
「ああ、あなたはなんて美しいんだ。ここから立ち去ってほしい程に!」
「う、美しい……? ……えへへ」
はにかむ従妹と、背中に突き刺さる友人の訝しげな視線。曰く「お前キャラ変わってんぞ」
だが、なりふり構ってはいられない。彼女は、超人を目指す俺の唯一の弱みだからだ。
このまま力技で押し切る! そう決めたときだった。
「あやこー」
従妹の後ろからもう一人、同じぐらいの年齢のポニーテール少女が姿を現した。
「あれ、健一さんじゃん。綾子の従兄兼彼氏の」
彼女は屈託なく笑った。
「彼女に会いに海まで追いかけてきたんですか?」
帰りの電車で友人はぶーたれた。曰く、「なんだよ彼女持ちかよ」
一方俺は隣にひっつく従妹兼彼女に身体をかたくしていた。
女性との交際など男の弱みでしかない。従妹に告白したのは一時の気の迷いだった。
「あはは、仲いいですねー」
従妹の友人がからかってくる。この空気はどうにも居心地悪い。
俺は最後の賭けに出た。
「あー……世はなべて事もなし、だな」
「何それ」
俺の彼女がくすりと笑った。
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