825:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)[sagasage]
2011/11/15(火) 21:52:16.38 ID:zRbR25Mco
>>819
「うるさい! この悪党め!」
その甲高い声に突き刺され、俺は思わず口ごもった。
夕暮れの日射しが背中を焼いた。
「仕事では随分な人気者なんだって?」
久しぶりに同窓会であった友人はそう言って笑った。相変わらず優等生だな、とも言った。
ヒーロー業を始めてもう三カ月だ。真面目にやれば当然結果もついてくる。そして、その結果に見合った仕事もおのずと入ってくる。
「君ももう慣れてきたからな」
上司から渡された辞令書には一人で仕事をこなすようにとの旨が記載されていた。
ため息を吐きかけ、気付き、呑み込んだ。
「おのれ……」
幼稚園のバスジャックに失敗し、足元に倒れ伏した怪物を静かに見下ろす。その頃にはもう日は暮れかけていた。
「ありがとう!」
「"ヒーローの、やるべきことをやっただけさ"」
マニュアル通りに笑って、マニュアル通りに返す。もう何度も繰り返してきて、慣れた。
子供たちを見送った後、会社に戻るために足を踏み出し、ふと目に入った自販機に近寄った。
硬貨を入れ、点灯するボタンをぼんやりと見た。
ヒーロー業初仕事の時も、そういえば自販機によって、先輩におごってもらった。あの頃は笑っていた気もする。
ふと出そうになるため息を堪え、重い腕を持ち上げた。
押したボタンに応じて、コーラが取り出し口に跳ねた。舌打ちする。俺は炭酸は嫌いだ。
嫌いなそれのボタンを押してしまった理由は、背後にいた。
こちらを睨みつける小さい男の子がいた。彼が俺を蹴ったのだ。
俺は笑顔を作って話しかける。
「"どうしたんだい? もう悪い奴らはいないんだよ"」
額に傷があった。怪物が人質に取った子供だった。
自分のうかつさに改めて胸の奥で舌打ちする。まだ帰っていない子供がいたとは考えなかった。先ほどの舌打ちは、間違いなく聞こえただろう。
子供が何も言わないので、もう一度口を開いた。
「うるさい! この悪党め!」
俺ではない。子供の甲高い声。出かけた言葉は吹き消されるように霧散した。
「あの怪物は悪くない! 無理やりやらされてたって……! ほんとはやりたくなかったって……!」
子供は言葉尻を泣きそうに震わせると、拳を握った。
「あ」
再び蹴られて、俺は声を漏らした。子供はいつの間にか沈んでいた太陽の方向に走り去っていった。
その背中を見つめながらしかし、俺は間抜けに口を開けているしかなかった。
自販機の口に手を入れる。とり出した缶を開けると空気が抜ける音がした。自分の身体からもした気がした。
そんなこと、言われてもな。
口をつけると、炭酸が苦く広がった。
怪物の事情なんて知らないよ。
心の中でつぶやいた。
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