859:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)[sagesaga]
2011/11/28(月) 23:06:59.60 ID:h0pD7fkKo
>>384
薄暗闇に言葉を流し込む。
「俺ぁアイツ以外の誰が死のうとかまわないと思ってる」
いかにも少年といった声の高さ。
「誰も彼も死んじまえ。テメエも一緒だ消えちまえ」
だから俺は自分のそれが嫌いだ。締めくくる。
「アイツに死んでほしいなら、同じくらい死ねと望まれるって知った方がいい」
しばし待った。吟味の間をはさみ、対面の男がゆっくりと口を開いた。
「……そうか」
大した内容ではなかった。だが俺はそれに満足した。
月光がストリートを照らす。穴ぼこだらけのそれらは本来の役目を果たしていない。
まるで俺らの正義のようだ。まったくもって意味がない。
「準備はいいか? 俺は出来てる」
確認にだって意味はない。互いに全てを捨ててきた。なら覚悟くらいしてなきゃ阿呆だ。
俺らは阿呆か? その点についてはノーだ。他の点では知るべくもない。
肩からゆっくり力を抜いた。あとは言葉は必要なかった。腰の重みに意識を移す。
対面の男はゆっくりと深呼吸した。ように見えた。肩が上下したわけでもないし呼吸音が聞こえたわけでもない。
それでもその気配はあった。さらに見間違いでなければ涙も流した。
だが幻想だ。互いに情は捨てている。だから――
それは唐突に訪れる。銃声は一発。どれだけもったいつけようとただそれだけ。
俺はさっさと銃をしまって歩き始めた。相手は二歩めで崩れ落ちた。
「俺に勝てるわきゃねえだろが。知ってんだろおい」
近寄って告げる。月明かりに照らされて広がる黒い染みがあった。
そいつは火傷痕のある手で拳銃を握り締め、弱弱しく震えた。
俺にもおそろいの火傷痕。こんなじゃじゃ馬をあつかっていれば誰にでも押される烙印だ。
それでも意味を見出しちまうのは、きっと無粋なことだろう。
「……ぁ」
肩を撃ち抜かれたそいつは、顔だけを上げて何かを吐きだそうとした。罵声か命乞いか、それとも別の何かか。
だが言葉は出てこない。まだ熱い拳銃を口に差し込まれてはしゃべれない。
「兄貴、俺ぁ行くよ。もう追ってくるな。次は殺す」
銃身をくわえたまま何かを言いかけた兄の頭に、銃床を叩きつけて意識を奪う。
引き金を引いても良かったがそうした。多分、気まぐれだ。そうにちがいない。
立ちあがって振り返って。俺はゆっくり歩き出した。アイツが今も待っている。
その時ふと気付いた。頬を伝う生ぬるい感触。いつの間にやらながれていたそれ。
俺は舌打ちしつつそれをぬぐった。だがどうしても拭きとれない。ああ涙が止まらねえ。
アイツを守ると誓ったその日から、俺は情とは縁切った。だから――こんなの認めねえ。それでもちっとも止まらねえ。
どうにもやるせない気持ちで、俺は身体を引きずった。その先に光はないと知りつつも。
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