884:SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)[saga]
2011/12/22(木) 05:27:35.60 ID:qbc2KaeLo
>>112
抜けるような青空が、彼の心とは裏腹にどこまでも高く澄んでいる。沈んだ心の底から見上げるそれはいつも以上に高く思えた。
胸中の汚泥が、青空からの光を浴びて腐臭を上げていた。振り仰いだまま重いため息をついた。
風が冷たかった。高校の屋上、フェンスすらも乗り越えて、端っこも端っこで、その男子生徒は座って静かに足をブラつかせていた。
「そんな所にいたら危ないぞ」
後ろから低く穏やかな声がする。振り向くと、着崩したスーツ姿の男が一人煙草をくわえて佇んでいた。
「……先生」
先生と呼ばれた男は、ゆっくり男子生徒の方へ向かって歩き、フェンスの手前で立ち止まった。煙草を手に取り煙を吐き出す。
そして見上げてつぶやいた。
「いい天気だな」
生徒は答えなかった。
雀らしき小鳥の鳴き声が聞こえた。
「禁煙ですよ。ここ」
「そうか」
男は答えたが、煙草を消す様子はなかった。
間をおいてから言う。
「最近どうだ?」
生徒はもう一度空を見上げた。答えずに、沈黙が落ちた。男の煙を吐く呼気が聞こえた。
「最悪です」
生徒がようやく口を開く。
「最悪ですよ」
繰り返して、言った。
「クラスにはもう、ぼくの居場所はありません」
「……」
「だから逃げだしてきたんです」
「そうか」
生徒は俯いた。
「ぼくが悪いんですかねえ……」
「さあな」
生徒が軽く笑う声がした。寂しげな笑い声だった。
「それ、教師の台詞じゃないですよ」
そうか。男は気のない返事を繰り返した。
「ねえ先生。ぼくもう一歩逃げることもできますよ。ここから、よいしょって」
「うん、そうな」
「でも怖いんです。先生も一緒に逃げません?」
「いいよ」
生徒がまた笑った。
また沈黙が落ちた。雲が流れ、時折太陽にかぶさり薄い影を地上に投げかける。
「さ、戻ろうぜ」
男が煙草を地面に投げて火を消した。
「はい」
生徒は静かに答えた。
「でももう少しだけ……」
屋上からは町を一望できる。それだけではない。もっと遠くも見ることができる。
……だが、それだけだ。そこに行くことはできない。そんな無力感。
男子生徒の髪を、風が撫でて、吹き去った。
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