950:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2012/06/15(金) 19:55:48.45 ID:wdd1y05Ko
>>945
その建物は俺にとって最も恐ろしい魔王と、最も美しい姫のいる城だ。
その魔王が悪者で姫が囚われの姫だったらまだ乗り込むのにそれほど勇気はいらないと思うんだが……。
しかし現実は魔王が勇者から姫を守っているという構図である。
ツバを飲み込み扉に手をかける。
そして、その扉を押すとからんからんと来客を告げる鐘が鳴った。
―― いつも思うけど、私設“図書館”だろ?
なんで鐘なんかつけてんだよ……。
その鐘の音を聞くと、一人の女の子がカウンターから顔を出す。
彼女は俺の先輩だ。
「あ、また来てくれたの?嬉しいなぁ……みんな一回は来てくれるんだけどさ」
花のように素晴らしく甘く美しい笑顔だと、俺は思っている。
そして、本当に花のようにその笑顔が誰にでも向けられると言う事も知っている。
―― そりゃ、魔王のせいだよ。
俺は緊張でうまく笑えてなかったと思うが、なんとか笑い、軽く頭を下げその図書館内に入ろうとした。
しかし、そこで魔王が出てきてしまった。
今までここを通れたのは三回だけだ。もう二ヶ月は通っているのに……。
「愚者は嫌いだ、と言ったよな?」
声だけで人を殺せそうな迫力を持っているが、最近少し慣れたようだ。最初の頃は本気でビビって、冗談ではなく小便を漏らしそうになったからな。今では“お姫様”と話すよりも、この魔王と話す方が気が楽なくらいだ。
「す、少しでも賢くなるためにこうして本を読もうかなぁ……と」
「ケッ、毎回毎回同じ事を言いやがって」
あんたもだろ!……とは流石に言えなかった。
「……お前の狙いはわかっているぞ?
俺の目が黒いうちは、大事な娘に愚か者は近づけさせん」
ニヤリと笑いながら、魔王はそう言った。
「……俺だって、諦めませんよ?
二ヶ月も魔王に即死技くらい続けて諦めるなんて……それこそ愚者ですからね」
なんとか勇気を絞り出し、そう言ってのけた。
まぁ、魔王にはダメージなんかないんだろうけどさ。
「……魔王、だと?」
「やべ」
魔……先輩のお父様の目がキラリと輝いた。
そして、一歩ずつ俺の方へ寄ってくる。
「はは……ネーミングセンス良く無いですか?」
「あぁ、気に入ったよ……。とりあえず今日は帰れ」
「嫌です」
「帰れ!……どうせ明日また来るんだろ?」
魔王は言ったあと、しまった!と言う顔をした。そして、バツが悪そうに大きく舌打ちすると、奥に引っ込んで行った。
〜〜〜
「おとーさんって実はあの子好きだよね」
夜、私は二ヶ月間毎日通ってくれる男の子の話をお父さんに振ってみた。
「……誰があんなやつ」
「ほら、あの子って言っただけで通じてる」
「……チッ、もう寝ろ」
「はいはーい。明日も来てくれるといいね?」
「……はぁ、ったく」
私は知っている。不器用なお父さんは、不器用なりにあの子を気に入ってる事を。
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