989:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2012/07/01(日) 04:13:38.84 ID:8AJGhkTao
>>744
〜〜〜
夕暮れに包まれた黄昏色の屋上で僕は彼女と話していた。
――ねぇ、前にも言ったけど空より私の方が綺麗でしょ?
聞こえないふりをして、夕日が綺麗だな、なんてつぶやくと彼女は長い髪をひらひらさせながら僕に近づいてきてすぐ横に腰掛けた。
危ないよ、と言うと彼女は寂しそうに笑った。
――大丈夫よ。君がいるもん。
何故、寂しそうなのかはわからなかった。
――こひ人よ、お前が優しくしてくれるのに、私は強情だ。
彼女がそう言った瞬間、僕の視界から空が消えた。
――……なんの味がした?
いたずらっぽく笑う。
――ねぇ、私と付き合ってくれる?
今度は寂しそうに笑った。
――私は……。
「おまへのことを思つてゐるよ……だろ?」
目を覚ますと彼女と話した屋上で僕は一人ぼっちの自分を見つけた。
「そんな事……一度たりとも考えたことなかったよ。
だって、君が僕なんかを、好きでいてくれたなんて」
もういない彼女に笑いかけてみた。
――幸福なんだ、世の煩ひのすべてを忘れて、いかなることとも知らないで、私は
おまへに尽せるんだから幸福だ!
「中原中也の無題か……本当に君は、強情だったよ」
ゆっくり立ち上がり、フェンスを登り屋上の内側へ戻った。
「でも、わかったよ。
君が求めた幸せの意味が――」
――一年かかっちゃったけどさ……どこまでも真っ直ぐだった君なら待っててくれてるだろ?
その日見上げた空も、やっぱり綺麗な青空で透き通った風ばかりが目立っていた。
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