997:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/07/04(水) 21:45:23.09 ID:CcVCh7PXo
>>991
太陽系辺境、"地球"とかつては呼ばれていた惑星。
その僻地にポッドと名付けられた少年がいた。
名前はある男女が付けた。ポッドは彼らにいつも聞かされていた。彼は本当の子供ではないと。
数年前のある日だ。女の方が荒野で救難カプセルを見つけた。中には少年が眠っていて、彼女は自分たちの住処に連れて帰ったそうだ。
だから名前はポッドだ。
ポッドは"両親"が好きではなかった。優しくはしてくれるのだが、それがどこか余計によそよそしくて、うすら寒くて。
自分が彼らの本当の子供ではないことがなんだか気にかかって、その優しさに応える気が起きなかった。
彼の日課は虫を潰して遊ぶことだった。自分より小さいものをどうにかできるのは、純粋に愉快だった。
世界中がこんなふうに、自分の意思でどうにかなればいいのにと思っていた。
そんなある日のことだった。日課の虫潰しから帰ると彼らが話している声が聞こえた。
異形なるものの話。他の惑星がそれらによって壊滅したらしいと。
いい機会だと思った。家を出た。
送り出されての旅路ではなかったが、気分は晴れやかだった。
街なる人の多いところに行って、惑星間の移民船に忍び込んだ。
もちろん真っ直ぐ異形たちの所へ行けるわけでもない。
忍び込んで移動するにも限界はあった。なので、次の惑星では働いて路銀を稼いだ。
ところでその惑星は故郷よりも発展の度合いが進んでいて、ロボットやアンドロイドがあふれていた。
いつものようにゴミ捨て場に寝場所を探していると、ロボットが捨てられているのが目に入った。
直せそうなものが三体。"両親"の教育で、そのあたりの技術はあった。
修理が終わると、ロボットたちは目を覚ました。
飛ぶ機能を持つものと、すばやいものと、センサーの鋭敏なもの。
従属回路は生きていた。彼らはポッドの手足となった。
数カ月後、ポッド達はその惑星の軍隊から惑星間移動船を奪って、宇宙にいた。
数時間で異形たちのいる惑星に近付くと、封鎖を突破して飛びこんだ。
移動船を出ると、どこまでも広がる草原だった。ポッド達は、早速異形の駆逐を始めた。
異形たちは人間に近い姿をしていた。だが人間よりはるかに強靭だった。
一体一体殺していては体力も武器も持たないと判断したポッドらは、異形たちが作っていたコロニーに火を放った。
焼け出されて出てくるものを一体ずつ引き裂いた。
そうしてまた数カ月がたった。異形の残りも少なくなった。
最後の異形にとどめを刺そうとした時、その異形は口を開いた。兄弟、と。
ポッドが驚いて手を止めると、異形はさらに言う。
兄弟。満足か。
どういう意味かポッドが問うた。
ポッドは虫を潰すのが好きだった。
世の中全てが自分の意のままにつぶれればいいと思っていた。
手始めに、自分の両親を引き裂いた。彼らは嘘をついていたから。
彼らの嘘。ポッドはある意味彼らの本当の息子だった。人造人間を人間と認めるならば、だが。
ポッドは彼らによって造られた。細胞を培養して、縫合して、造られた。
彼は両親の最後の作品だった。それ以前のものは異形と呼ばれた。そういうことだ。
彼は世の中の全てが自分の意のままにつぶれればいいと思っていた。
だからそうすることにした。
涙を流して、彼は足を踏み出した。
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