12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2011/01/19(水) 19:36:25.92 ID:IClwZiHj0
「十三銃士」
戯言遣いに促されるままに道を歩く。その俺に向かってソイツは肩口にそう言った。
「じゅうさん……じゅうし? 突然数を数えだして何がしたいんだよ、戯言遣い」
「狐さんお得意の言葉遊びさ。三銃士。名前くらいは聞いた事が有るだろう? あの物語では三人だったが今回、ぼくらの敵に……いや、世界の敵に回るのは十三人だから」
「十三銃士、って事か?」
「そういう事さ。ああ、余談だけど、ぼくと初めて敵対した時にも同じような組織が有って、その時は十三階段っていう名前だったんだ」
これまたワンパターンなヤツだな、その狐さんとやらは。
「いや、異例の事なんだ。あの人は二つポリシーを持っていてね。それは同じ事はしない、というのと、ポリシーを持たない、っていうのなんだけれど」
おい、その発言矛盾だらけじゃねえか。ポリシーを持たない事がポリシーなら、他にポリシーなんか持っちゃダメだろ。違うか?
後、戯言遣い。お前は俺をどこに連れて行こうとしていやがる。
「あの人の最悪たる所以(ユエン)はそこに尽きるよ。直訳するとやりたい事をやる。それだけだから。他人の迷惑なんて考えた事も無いんだろうさ」
「そりゃまた、迷惑な大人も居たモンだな」
俺がそう言うと、そこで初めて戯言遣いは笑った。
「ああ、そうか。そういう考え方も出来るのか。なるほどね。勉強になったよ」
「何がだ? 戯言遣いさんよ。アンタ、コミュニケーション障害の気が有るんじゃないか? 人に分かるように物事を喋らないってのは、ウチの団長を引き合いに出すまでも無く悪癖だぜ?」
「いや、ね。ぼくの周りには迷惑じゃない大人っていうのが居ないんだよ。過去も。現在も」
そしてきっと未来も、とソイツは付け足して。そして笑った。俺からしてみればこの男も十分に大人と呼べる年齢だったりしたのだけれども、その時ばかりはなぜだろうか、同年代のように見えた。
「なあ、そう言えば戯言遣い。アンタ"いーちゃん"って呼ばれてたよな」
「ん? ああ、そうだよ。いーちゃん、いっくん、いーたん、いの字、代表的なのはこんな所かな。何? 戯言遣い、って言いにくいかな? だったら好きなように呼んでくれていい」
名前なんて所詮ただの識別信号だしね、とソイツは言うがその台詞も俺はどこかで聞き覚えが有るぞ、オイ。
「どれも戯言遣いよりは呼び易いだろうけどよ。そうじゃなくて、俺はアンタの名前を聞いてるんだが」
人に名前を聞く時は先ず自分から。恐らくコイツは既に知っているだろうがそれでも俺は自己紹介をしようと口を開き、しかしそれよりも早く戯言遣いは言い切った。
「ぼくの名前なんて知らない方が君の為だよ」
「どういう事だよ、そりゃ」
「その若さで死にたくないだろう?」
どうも文脈に異次元空間が発生するというか、脈絡なんて言葉を知らないかのように戯言遣いの台詞は前後に流れってモンが見えちゃこない。
「意味が分からん。なんで名前を聞いたら死ぬんだ?」
「ぼくを名前で呼んだ人は今までに三人居るのだけれどね。その三人は」
「三人は?」
「例外なく死んでいる」
絶句する。言葉が出てこない。何も、言い出せない。俺は戯言遣いじゃないから戯言すら、出てこない。
「だから、無用な詮索は君自身の為にも止めておいたほうがいいよ。こっち側は君みたいな人が生きていられるほど、優しくない」
戯言遣いの背中は、俺よりも小さなその背には、俺なんかよりも余程重たいものが乗っているのだと知る。人の死の重さなんて俺には分からない。
分かりたくも、ない。
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