21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2011/01/19(水) 20:05:10.77 ID:IClwZiHj0
「良いんですか、狐さん。哀川さんを帰してしまって。これでもう、貴方を守る人は居ませんよ」
「『これでもう、貴方を守る人は居ませんよ』、フン。いいか、"いーちゃん"。潤はただの前座だ。お前も得意な時間稼ぎってヤツだ。時間が時間だからな。連絡が付いたのは六人しか居なかったが、それでもお前らを全滅させるには十分だろ」
十三銃士。あんな人が後十二人も居るっていうのかよ、おい。たった一人でも長門の相手を出来そうな規格外が他にまだ!?
「ま、高校生の女の子にこんな時間出歩かせる訳にはいかなかったからな。一番お前らに……キョンに逢わせてやりたかったヤツには連絡すらしてないが、しかし真心の一件を振り返るまでもなく切り札ってのは最後の最後に出すモンだ」
「……それで、狐さん。この場でぼくたちを殺 すつもりですか?」
いーさんがさも当然とそんな事を口走るが、いやいや勘弁してくれよ。覚悟も何も出来てねえっつの。
アンタたちはどうか知らんがこっちは完全無欠に一般人なんだぜ? 展開に付いて行くのすら正直厳しいんだから、もう少しこっちに気を配ってくれてもバチは当たらないんじゃないのかい?
「フン。そんな事をしてどうなる? 今回の一件は結構こっちにとっても条件がシビアなんだよ。分かんねえか? 涼宮ハルヒを絶望させる、って勝利条件を満たすにはどうすればいいか、俺は頭を捻って考えたぜ。
それでようやく出て来たのが、自分でもいささか閉口しかねないやり方だ」
涼宮ハルヒを絶望させる方法?
アイツは結構頻繁に神人を産み出して世界を無かった事にしようとして……いたのは去年までか。今のハルヒは、こう言っちゃなんだが我慢強くなったからな。いや、前と比べてだぞ? 世間一般から見てみればまだまだ我が侭な女子高生なのは間違いない。
「その女の子が大切にしてるモンを目の前でぐちゃぐちゃに踏み潰してやればって、ああ、こんな方法しか思い浮かばなかった自分の頭が嫌になるぜ。人類最悪の名が泣くってな。もっとスマートに最悪なやり口が有ったら教えてくれないか、キョン?」
……ぐちゃぐちゃ。
大切にしてるモン……SOS団を、目の前で。
なんてコト考えやがる。なんてコトさらっと口走りやがるよ、コイツ……この狐面の男。
言うコト言うコト、「最悪」だ。
「とは言え、潤の顔を潰すのもマズいからな。後でなんとでもなるが、それでも俺の娘は人類最強だ。その娘が自分の名に賭けてまでこの場で手は出さない出させないと言ったとあっちゃ親としては手を出す訳にはいかないだろうよ」
「……懸命ですね。狐さんらしくもない。ぼくの知っている貴方は何もかもをやりたい放題にして後始末すら尻拭いすら出来ないほどに状況を壊滅させるのがお得意だったはずですが」
「フン、信じるも信じないも勝手にするがいい。俺は部下に恵まれるが、指揮官ではないらしいからな。ドイツかが勇み足を踏んだとしても知った事ではない。そして、そこで死んだ時は何をしてもソイツはそこで死ぬ運命だったと、それだけだ」
運命。それは神様の領分。
神様。それは……。
「では、今日は顔合わせ。宣戦布告で済ませましょう。ぼくとしてもこの場で貴方に手出し出来ない以上、もうここに用は無い」
「『用は無い』、フン。明朝にでもゲームのルールを決めて遣いを寄越してやる。今夜はもう、お開きだ。俺はこれでも忙しい身でな」
「ゲームのルールって、テメエ! 何がゲームだ! ふざけんなよ!」
ハルヒの絶望を、ゲーム感覚だと? ふざけるのも、大概にしやがれ!
「吠えるな、餓鬼。俺の娘ごときに射竦められて動けなくなるような小物と話す事は何も無えよ。もしも俺を本気で止めたいならテーブルに有るフォークでもナイフでも使って俺の心臓を貫けばそれで足りる話だ。違うか?」
バスケットに入ったナイフとフォークに瞬間、眼をやる。だけど、それに手を伸ばす事が俺には出来ない。
人を刺す事なんて、俺には出来ない。
「教えてやる、キョン。お前には覚悟が足りてねえよ。もしかして、お前。ここに至ってまでまだ自分は死なないとか思ってるんじゃないか?」
狐面が俺に向き直る。その面に空いた、二つの穴から覗き込む双眸。相貌。それは冗談を言っているようにはどうしても、見えなかった。
「そんなんだと、死んじまうぜ? なあ、戯言遣い? 俺たちの戦争はたっくさん死んで、殺して、死んでるよなあ?」
いーさんは何も言わず、ただ一つだけ頷いたのだった。
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