5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2011/01/19(水) 19:22:53.31 ID:IClwZiHj0
深夜。古泉を送り出した後。日中だらだらと食べ物を口にしていたせいで、変な時間に腹が減って起きてしまった。携帯を開けば時刻はAM二時。こんな時間ではどこの店もやってはいまい。
空腹をやり過ごして寝てしまおうかとも思ったが、しかし今日ばかりは何も我慢するべきではないと俺の中の誰かが囁きやがる。悪魔とかそんなんかね?
まあ、何でもいいさ。どうせ、着の身着のままで寝ちまったんだ。外出に際して着替える必要も無い。コート一枚羽織れば俺@コンビニ突撃仕様の出来上がりだったしな。
おっと、財布財布……はコートのポケットに入れっぱなしか。寒いし、おでんかカップ麺だな。あったかい食物を胃が欲してぐるぐると唸りをあげていやがるぜ。
コンビニに置いてある食い物その他を頭の中で物色しながら玄関を出、最初の十字路を右に曲がり……
街灯の下に、ソイツは居た。
まるで、舞台劇でライトアップされた役者のような、しかしどこにでも居そうな取り立てて特徴の無い、しかししかしソイツが纏っている雰囲気だけは役者、それも主演役者のような。
視界に浮かび上がって見えるとでも表現すればいいのだろうか。俺にはちょっとその男を形容する言葉が出て来ない。
それでも。
それでもあえて足りない語彙で表現するとしたら。
位置外。
そこに居てはならない。
世界にそんな人間が存在していてはいけない。
なぜか、そんな感情をこちらに抱かせる、ソイツはそんな男だった。
ソイツをこちらを真っ直ぐに見つめ、そして右手を上げる。
「やあ」
さて、ここで俺から質問だがもしもアンタが深夜二時、閑静な住宅街の、他に人気の無い道で知らない人に親しげに声を掛けられたらどう思うだろうか?
ちなみに俺の答えはこうだ。
無言で回れ右。君子危うきに近寄らず。
知らない人に声を掛けられても付いて行ってはいけません。しかもそれが得体の知れない雰囲気を醸し出しているようなら尚更だ。
ふむ、そう考えると幼少期の教育ってのはほとほと大事だと思うね。
「いやいや、無言は無いんじゃないかい? 他に誰もいないのだからぼくが声を掛けたのは君以外に居ないだろう? それとも、ぼくには人に見えない何かが見えていて、その何かに向けて親しげに挨拶したのかな?
なんてね。残念だけど、いや残念でもなんでもないけれどぼくにそういったものは見えないよ。君の友人と違って」
ピクリ、俺の耳がソイツのその言葉に反応する。歩き出そうとしていた足が、止まる。
「大体さ。君、自分の価値みたいなものをきちんと理解していないんじゃないのかな? ぼくみたいなのが君と出会う、君の前にこうして立つ事がどれだけ高難易度か少し考えれば分かると思うけどね。
首領蜂って往年のシューティングゲームよりもまだハードなんだよ、本当。ああ、君の世代じゃ知らないかな? クインティの裏ステージって……こっちも多分通じないだろうなあ」
男はそんな意味の分からない事を言って、上を向いた。その方向には空しかない。曇っているのか、星も見えない空しかないのに男はそれでも眩しそうに目を細めていた。
「ま、戯言だけどね」
この時の俺は、目の前の男が正義の味方だなんて夢にも思っちゃいなかった。
641Res/518.59 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。