62:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2011/01/20(木) 18:45:21.71 ID:l1nLUIO70
石丸さんが身構える。俺は知らず同調して身構えていた。別に石丸さんの標的に今現在俺がされている訳じゃない。けれどそれでも、周りの人間に危機感とか覚悟とかそういった類のものを促して余りあるだけの空気を彼女が放ったからだった。
そういえば。この感覚は哀川さん(だったか?)と同種だな。プレッシャで、雰囲気で相手の行動を束縛する。身と行動を固定させるこの感じ。
身構えたはいいが何かをされようものなら、何の反応も出来ずただ俺の体が崩れ落ちるのは目に見えている。
その人がそこに居る。ただそれだけで周囲の方向性を決めてしまうこれは、スター性っつーヤツだろうか。俺には一生縁の無い言葉だな。
だが。そんな空気の中であっても、動ける人間ってのは少なからず居るらしい。この時はいーさんがそれだった。
「行こう」
二の腕を捕まれて移動を強要させられる。自分の内からは動こうとする意志がネコソギ持って行かれちまっていたが、それでも人間の体ってのは面白いモンで、外から重心を動かされれば転ばないようにと自然、足が出る。
でもって、一度動き出しちまえばまるで金縛りが解けたように口の方もすんなり開くようになるらしい。
「いや、行こう、っていーさん。アンタは友達が心配じゃないのか?」
「心配じゃないよ。ぼくは心配される側であって、心配する側じゃないし。心配、って心を配るって書くんだけどね。心を他に砕けるような人間は得てして自分に余裕の有る人間なのさ。そして、自分に余裕が有るとは言い換えれば強いと、そういうことだよ」
俺が歩き出した事を確認してか、戯言遣いは腕を放す。歩き出すソイツに追従するように足は動いたがしかし、俺は大泥棒と人類最終の戦いに後ろ髪を引かれる思いでいっぱいだった。
だって、想影さんはいーさんの要請とは言え、俺の為に戦ってくれてんだぜ?
「人類最弱に、強さなんて求めちゃいけない」
「で……でも! そりゃあ、俺だってここに居たって何の助けにもならないし、ともすれば足手纏いになるのも分かってるけど!」
背後から怒号が轟く。また激突がはじまったのだろう。それは断続的に路地裏で響き、そして俺の心に響く。だが……だが、戯言遣いの心にはまるで響いちゃいないようだった。
「分かっているなら、実行しろ」
唇を噛み締める事も無く、本当に想影真心の安否になど興味がないかのように、戯言遣いは俺に告げる。
「頭で理解しているなら、心で受け入れるんだ。何を為すべきか気付いたのなら、為すように動かなきゃ何も為らない」
それは「戯言遣い」の口から出ているとは思えないくらいに、的を射た「真言」だった。
「なるようにならないとボヤくのは、何もしていない人だけだよ」
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