過去ログ - 騎士「全てを見届ける」
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21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]
2011/01/31(月) 22:26:28.94 ID:aoryfah40
騎士「……ん? 勇娘、その怪我、どうした?」

勇娘「え? 何でもない……」

勇娘が六歳の頃。学問所に通っていた彼女の様子がおかしな事に、騎士は気がついた。
体のところどころに、アザが見える。

騎士「何でもないことはないだろう。俺に言ってみな……」

勇娘「…………」

騎士「勇娘は俺の大事な娘なんだ。お前に何かあると、俺が困る」

勇娘「あのね……、お父さんが……、化け物だって言うの。みんな」

騎士「…………あ、そう、なのか」

勇娘「わたしがね、そんなことないって言っても、信じてくれないの」

騎士「…………」

勇娘「それで、殴られたり、蹴られたりしたの。……化け物のむすめは、化け物だって」


勇娘の言葉を聞く度に、騎士の心に悔恨の念と、憎悪の念が宿る。
自分が勇娘を育てていることで生まれてしまう弊害を考えなかったことの自責。
事実は知られていないにせよ、人々があれだけ崇め称える勇者と僧侶の娘である勇娘を迫害する者たちへの怒り。
そして、結局は全ての元凶たる自分への凄まじい憎悪。
知らずのうちに剣を取っていた騎士は、勇娘に鋭く言い放った。

騎士「今日の内に王都を出るぞ」

勇娘「え……?」

騎士「誰も俺たちを知らない所に行くんだ」

勇娘「で、でも……」

騎士「俺には、お前を守る術がそれしかないんだ……。化け物はただ、逃げる他ないんだよ」

街の者たちを殺したいと思ったことは二度や三度ではない。
だが、そんな思いを抱く度に、まだ人間であった頃の自分、理想を追っていた頃の自分がそれを押しとどめるのだ。
自分が守りたかったのは、こんな人々なんだ、と。
守りたくて守った人々を手にかけてどうする。死んだ勇者と僧侶が、浮かばれないだけだ。
だからずっと、堪え忍んできた。逃げてきた。そして今回も、逃げるのだ。
今度は、自分たちを知らない、どこか遠い遠い世界へ。

騎士「だから、用意しなさい」

勇娘「うん……」

騎士「…………」

あの子は賢い子だから、きっとわかってくれるだろう。
そう信じると同時に、いずれ自身の秘密にも気付いてしまう日は来るのだろうとの確信もある。
それは怖い、怖いが……、しかし必ずやってきてしまうことなのだ。

騎士「それでも俺は、勇娘を育てる。俺にできるのは、まだそれだけだ」


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