107:作品ができてからは9年が経過したそれ散る[sage saga]
2011/08/14(日) 22:39:36.78 ID:pPAknuzQ0
「久しぶりだね。舞人にい」
―――8年ぶりか。確かに久しぶりだな。
桜井舞人がこの桜坂市に足を踏み入れたのは、実に8年ぶりの事だった。高校三年になる直前、逃げるように母の元である雫内市に戻り就職をした舞人は、以降実は知り合いの誰とも会っていない。母の元と書いたが、母親ともほとんど顔を合わせていなかった。年に数度、お盆は正月などを外した時期に帰るだけであった。
「ホントにな。転勤で桜坂に戻ってくるとは思ってなかったわ。和人、お前もでっかくなったな。和人ハーレムはまだ健在なのか?ん?おじさんに話して御覧なさい?一人くらい分けてくれてもいいんだYO?」
「相変わらずだねと言いたいところだけど僕のあれ、まだそのままだから」
―――人間嘘発見器め。
青年、佐伯和人が言ったあれとはハーレムの事を指しているわけではない。むしろハーレムには追加人物がいたりするのだが、それは別のお話。和人は人の嘘を見抜く力を持っている。そしてその力は幼少時よりも長け、誤魔化している本人の心情も機敏に読み取れるまでに至った。
「舞人にいがこの街を離れた理由はわかってるし、とある事情から舞人にいが抱えてた問題も知ってる。僕もその後を追っているから。だからこそ言わせてもらう。甘えすぎ」
ぐさりと弟分の言葉が胸に刺さる。和人に会う前に実は何人かの元クラスメートに会っていたりもする。だが、彼の傷心は理解されていたというよりも月日と共に忘れ去ってしまったので、誰一人彼にきつい言葉を吐くこともなかった。だが、それよりも今この和人は何て言ったのか。
「和人。お前…」
「僕もさ、ちょうどあのころの舞人にいと同じ時期に桜香に忘れ去られたんだ。でも、取り戻したよ。恋愛感情ではなかったかもしれないしそうであったかもしれない。自分でもまだ色語彙沙汰というのが分からない。でも僕は立ち止まらなかった。舞人にいが帰って来れるきっかけを作るために。心配する桜香を助けるために」
舞人と桜香。元々この二人は人間とは異なったモノであった。それが人に触れ、惹かれイマのカタチとなった。だが舞人は人と人との心のつながり、即ち愛する事に失敗した。それはもともと違う者同士、つながれば遠ざかってしまう運命だったのだが、それでも彼は愛した。それゆえに失うことになったのだが、耐えられなかった。しかし、この目の前の青年は何と言った?乗り越えたのだ。自分自身のために、舞人のために、何より桜香のために。
「時計を進めるには遅すぎるかもしれないけど、止めっぱなしもよくないんじゃない?あの人は変わらず、あそこにいるから行って改めて決着をつけてきなよ。取り戻せとは言えない。でも進むべきだ」
嘗ての弟分から叱咤激励を受け、8年前から止まった時計を進めるべく舞人は愛した女の元へ進んでいった。
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