60:素顔同盟を知っているか[sage saga]
2011/03/30(水) 23:54:48.99 ID:F67Xm6V40
朝、目が覚めた。僕は顔を洗い、身だしなみを整え、仮面を着ける。鏡を見れば、無表情に笑う僕がそこには居る。
「おはよう」
階段から降りた僕はいつもと変わらず、笑顔を浮かべて両親に挨拶をする。それに対して両親もいつも通り、笑顔を浮かべたまま「おはよう」と返す。何の変哲もない、いつもと変わらぬ朝。代わり映えのしない朝。
毎日繰り替えされる、寸分違わぬやり取り。僕らが喧嘩や言い争いになることはない。先生の言葉通り、僕たちの間に摩擦が起きることはない。平和で平穏な生活かもしれない。
しかし、本当にこれで幸せなのだろうか。みんなが同じ笑顔を浮かべることで、みんなは等しく同じ存在になってしまったように思う。同じになったから、努力してまで他人を知る必要はなくなった。必要以上にコミュニケーションを取ることもないし、親しくなろうともしなくなった。
おかげで喧嘩や争いは起こらない。だけどそれは、人が人に対して興味を持たなくなったというだけなのではないだろうか。果たしてそれは人間らしいと言えるのだろうか。
僕はそんな疑問を口には出さずに家を出た。思っていることをそのまま言えば、僕は国の平和を乱す不穏分子としてどこか遠くの施設に隔離されてしまうだろう。
学校へと続く道では、僕と同じ笑顔を浮かべるたくさんの仮面が肩を並べていた。まるで無表情な笑顔がベルトコンベアーに載せられて運ばれているようで、ひどく不気味で滑稽な光景だ。
しかしそれをおかしいと感じているのは僕だけのようで、みんなはその流れに逆らうことなくスムーズな足取りで校舎へと入っていく。
そんな中で僕だけが、校門の前で足を止めた。そのまま校舎の中に入ってしまえば、みんなと同じになってしまうような気がしたのだ。
「きみ、早く学校に入りなさい」
校門の内側で、笑顔を浮かべた先生が僕を見て言った。あの仮面の下で、先生はどんな表情を浮かべ、どんなことを考えているのだろう。
「みんなは学校に入りましたよ。きみも早く入りなさい」
やはり先生もこの世界に――仮面を着けることに何の疑問も感じていないのだろうか。先生の目に僕はどう映っているのだろうか。
「待ちなさい!」
僕は駆け出していた。きびすを返し、学校の反対側へ向かって走り出していた。
行き先など頭にない。それでも駆け出さずにはいられなかった。
後ろの方で先生の声がした。僕を追いかけて来るのがわかった。けれど絶対に追い付かれることはないだろう。僕は確信していた。
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