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61:素顔同盟を知っているか[sage saga]
2011/03/30(水) 23:55:58.47 ID:F67Xm6V40
行き場のない僕がたどり着いたのは、街の東側を流れる川のすぐ脇にある公園だった。

川を隔てた向こう側は自然保護区になっていて、手付かずの自然がそのままの姿で残されている。そこでは秋の風に吹かれた木々が色彩豊かに染まり、それぞれが季節を彩っていた。

しかしこちらの居住区はそれとは対照的で、無機質な金属やコンクリートで固められたビルがそびえ立つ人工の街だ。此処では風を感じることも、季節の色を目にすることもない。

その二つの景色はまるで自然と人が対立して向かい合っているようで、僕は出来ることなら川を渡って向こう側の風景に紛れ込んでしまいたいと思った。

けれど僕にはそんな勇気はない。仮面や社会に対して疑問を抱いてはいても、行動を起こす勇気など持ち合わせてはいないのだ。結局僕はこの先も、仮面に縛られて生き続けるのだ。


ふと気が付いたとき、川岸にひとりの女の子が立っていた。歳は僕とそう変わらないだろう。彼女は街の人々の視線から隠れるようにして、木の陰にそっと佇んでいた。

向こう岸の森を見つめる彼女に気づかれないよう、僕は何本か離れた木の傍から彼女を見守った。彼女の顔に貼り付けられているのもまた、みんなと同じ無表情な笑顔だった。

(何をするつもりだろう)

彼女の周囲ではすべてが平坦に色褪せて見えて、しかしその中心にいる彼女だけはまるで違った存在感を放っていた。その異質な雰囲気に飲まれた僕の鼓動はみるみる早くなっていく。

暫くそのまま時間が過ぎると、ふいに彼女は仮面に手を掛け、それをそっと外した。突然のことに、僕は思わず息を止めていた。事の重大さ胸をどきどきさせて、周囲を見回してみたが誰も居なかった。僕はホッとしたのと同時に、彼女を恐ろしいと思った。

しかし、素顔になった彼女の表情は悲しそうで、寂しそうで。そしてなにより、美しかった。


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