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63:素顔同盟を知っているか[sage saga]
2011/03/30(水) 23:59:20.26 ID:F67Xm6V40
数週間が流れた。僕は相変わらず公園に通い続け、今日も川岸で対岸の森を眺めていた。

季節はすっかり秋の様相を呈している。彼女もこの紅葉をどこかで見ているだろうか。

最近、世間ではある噂が囁かれていた。冒頭で僕が話した素顔同盟についてだ。

噂によると素顔同盟は、仮面を外し社会や警察の手から逃れ、この川の上流の対岸の森で素顔で生活しているらしい。

(彼女と出会う前にこの噂を知っていれば・・・)

知っていれば、僕は彼女に声をかけていた。そう思いかけて、うつむいた。果たして本当にそうだったのだろうか。

(いいや、知っていたとしても僕は・・・)

今だって同じだ。素顔同盟の存在を知った。だからどうした。どうもしない。僕は誰かが自分の手を引いてくれるのを待っているだけなのだ。

(それじゃ何も変わらない)

自分から動かなければ、何も変えられない。遅すぎた。それに気が付くのが遅すぎたのだ。

冷たい風に背筋が震える。冬はすぐそこまで来ていた。彼女と出会った季節が、終わりを迎えようとしていた。

川の水とともに、真っ赤に色付いたモミジの一群が過ぎていく。秋の残り香だ。僕はその流れの中で、ふと妙なものを目にした。

白っぽい無機質な板が流れていく。それは仮面だった。笑顔の仮面が川に浮いているのだった。

僕は夢中で川の中に足を進め、それを拾い上げた。薄っぺらい、作り物の笑顔。感情の込もっていない表情。僕が見た彼女の素顔とはまるっきり違う、贋物の顔。

しかし、それは紛れもなく彼女の仮面だった。きっと彼女はこの川の上流で、仮面を捨てたのだ。

この機会を逃したら、今度こそ間違いなく二度と彼女と会えなくなるだろう。だけど今更そんなことは関係ない。仮面を目にした瞬間から、すでに覚悟は決まっていた。

(もう一度、彼女に)

拾い上げた仮面を握り締めて、僕は行く。

(彼女の素顔に出会うために)

ためらうことなく、川の上流へ。

素顔同盟の元へ向かって、歩き出した。


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