過去ログ - 上条「精神感応性物質変換能力?」
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47:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2011/03/06(日) 23:06:11.86 ID:/YtqN7c5o
 八月十六日 午前三時 第一八学区 水穂機構・病理解析研究所

「そっちはどう?」
「もう終わってるぜ。次はどっちだ?」
 美琴の問いに、携帯電話の向こうからカズマが応えた。通話越しにも鮮明に聞こえる断続し
た爆発音が、破壊の完了を証明している。
「次は第二〇学区だから、北西に三〇キロ移動して」
 あいよ、という返事と同時に受話口から流れ出す、風切り音がやかましい。送話口に向けて
カズマが何か喋っているようだが、当然、一言も聞き取れない。
 電話をかける方はともかく、切り方すら受けつけなかった男に、空中を高速移動しながらの
会話が不能であることなど、想像しろという方が間違っている。美琴は研究所を見下ろす屋上
の縁に腰を下ろし、短い休憩に入った。

 彼らの作戦は単純にして明解である。カズマが正面からド派手にカチ込んで破壊の限りを尽
し、美琴は裏口から侵入して設備と情報を焼き殺す。カズマのあとには燃え盛る廃虚が残り、
美琴のあとには役立たずになった研究所が燻っている、という寸法だ。大袈裟な被害に視線と
人員が向けられるほど、小規模で致命的な破壊は目立たなく、そしてやり易くなる。

 この状況に『実験』を統括する『製薬会社』の責任者は困惑する。通信回線を利用したサイ
バー攻撃により、複数の施設が炎上したとの報告を受けて、通信の遮断を指示、事態の収拾に
取りかかった。そこまではまだ、許容の範囲内だったのだが、生き残っているはずの施設から
煤にまみれた研究員が持ち込んだ、「正体不明の攻撃を受けて爆発しました。ミサイルかも」
という要領を得ない報告が彼の常識に亀裂を入れ、次に駆け込んで来たアフロ頭の女性研究員
による「隕石が!」という、もう報告でも何でもないデタラメが止めを刺した。
 受話器を取り上げてある番号を打ち込む。通常とは異なる硬質な呼び出し音が、出世の遠の
く足音に聞こえてならない。「どうにでもなれ」の呟きと同時に回線が繋がると、彼は緊急の
申請を二件、先方に告げた。

               ×    ×    ×

 ドガッ、という荒々しい着地を決め、カズマが携帯電話に報告した。
「たぶん三〇キロだ」
「早かったわね」
「そうでもないさ。で?」
 カズマの位置を示すGPSの光点を確認して、美琴が指示を出す。
「そこから西に五〇〇メートルのところに、L字型のビルがあるわ。それが標的」
「OK。もう始めていいか?」
「もちろん。派手に頼むわよ!」
「当然のパーペキだ!」
 そしてまた風の騒音をまき散らし、カズマが飛び立つ。やがて抹殺のォオオッ、という切れ
切れの叫びに続いて受話口から爆音が轟いた。美琴は満足して、回線越しにカズマの携帯の通
話を終了させる。
「さあて、こっちもやるわよ!」
 磁力でビルの壁面を掴み、水穂機構・病理解析研究所の裏手に降り立つと、御坂美琴は侵攻
と攻撃を開始した。

               ×    ×    ×

「製薬会社からの依頼ー?」
 長い茶髪を弄びつつ、いまいちやる気の感じられない声で、若い女が携帯端末に質問を返す。
『緊急事態なんだから、どこからだって構わないんだっつーの!』
 回線の向こうでは彼女の上司が怒鳴っている。
「えー、いま忙しいんだけど?」
『えーじゃないわよ! こいつときたら! こっちだってやりたくて受けた訳じゃないのよ! 
いいからアンタらはとっとと出動しなさい!』
「しょうがないわねー。で、場所はどこよ?」
『「Sプロセッサ社」の「脳神経応用分析所」よ!』
「ああ、48区の……」
『11区だ!』
 ハイハイと、やはりやる気なげに応えて端末を切り、仲間たちに告げる。
「こんな時間だけど、新しい依頼が来たわよー」
「超眠いです。もう帰っていいですか?」
 こんな時間に起きていて大丈夫なのかと、見ている方が心配になりそうな幼い少女が断わる。
「結局、断れないんでしょ? 私はやるよー、新しい水着も欲しいし」
 深く考えないのが身上らしき、金髪碧眼の少女が簡単に了承する。
「……もっと輝けと囁いてる……」
 こんな時間だからという以上に眠たげな声と表情で、ピンク色のジャージの少女が頷く。
「ま、ギャラは悪くないみたいだし、ちゃっちゃと片づけて帰るわよ」
 カッ、とブーツの踵を路地裏に響かせ、女は移動用のキャンピングカーへ向かう。夢破れた
悪党どもの断末魔を残して、三人の少女があとに続いた。

               ×    ×    ×


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