過去ログ - フィアンマ「これがあの男が命を懸けて救った世界、か」
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374:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2013/03/17(日) 18:47:11.59 ID:lrtfG9Nzo




  親に愛された記憶は無いが、それを特別不幸と思ったことは無かった。そんな不幸はありふれていた。
  気付けば周りには濁った目の大人達しかいなかったが、そんな人間は世に溢れていることも知っていた。
  幸福ではない、けれど突き抜けて不幸でもない。言ってしまえば月並みで平凡な、息苦しい泥の中。
  親しい友人や尊敬する師もいなかった。だから信じられる人間なんて何処にもいなかった。

  その代わりになのか、自らだけは頑なに信じていた。いや、自らの力か。
  聖なる右。それだけが彼の中で特別に輝いていて、それだけを信じていた。


  しかしそれは完全ではなく、また何の為に振るうべきなのかも分からなかった。
  彼が執着していたのは唯一それのみで、そのほかには一切興味が無かったのだから当然なのだが。
  物にも人にも興味は無かった。それらは、右腕を振るえば一瞬で砕けてしまう脆いものだったから。

  だが。
  今になって、今更になって思う。それは本当だったのか。
  大切な何かが欲しかったし、大切な誰かが欲しかったのではないか。自らに絶対的な価値が欲しかったのではないか。
  何とも繋がらずただ相対的な個の極みとしてそこに在っただけで、何も無いのが寂しかったのではないか。


  生まれたときから彼という人間は歪んでいて、故に歪んだことなど一度も無い。
  ただ歪なまま、その上に着実に積み重ねてきたものも当然のように歪んでいただけで。

  特別な右腕があった。世界を一度に救ってしまえる、世界にただ一つしかない右腕。
  それを自覚した瞬間から、見えない重圧のようなものを感じていたのかもしれない。
  それを感じた瞬間から、漠然とした期待も抱いていたのかもしれない。






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