過去ログ - 美琴「私が一万人以上殺した、殺人者でも?」
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508:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2011/06/14(火) 00:42:26.20 ID:bkJDEol4o

――カツン、と金属が石畳を叩く音が響く。

 知らず口腔内に溜まっていた唾を飲み下し、上条は力の抜けそうな全身に喝を入れるかのように、右手を強く握り締めた。

 建物の切れ目から僅かに差し込む陽光。その切り取られた光源をゆっくりと通り過ぎる姿は、闇の中にいるよりも尚、鮮やかに浮かび上がる白い影そのもの。
 そう、まるで昼間の空にぽっかりと浮かぶ青白い月のように、それは見る者に現実感すら感じさせない。

 しかし、そこから吹き付けるかのように発せられる威圧感は、間違いなくそれが現実である事を嫌と言うほど上条の肌に焼き付けてくる。
 プツプツと粟立つ二の腕の辺りを無意識に擦り上げながら、上条はハッタリでもいいと目の前の悪魔を睨みつける瞳に力を込めた。


「一方……通行……っ」

「あァ?」

 ピタッ、と足を止め、白い少年が顔を歪める。

 張り詰めていた空気が僅かに緩み、上条はようやく溜め込んだ息を吐き出す事が出来た。

 紅い瞳が舐めるように動き、上条の全身を這い回る。
 何故、目の前の男は名前を知っているのか、と口にしても居ない一方通行の思考が視線から流れ込んでくるようだった。

(――くそ、俺は蛇に睨まれたカエルかってんだ……!)

 良くある慣用句だが、実際に使う機会が来るとは夢にも思っていなかったと、上条は引いていた汗が再び噴出すのを感じる。
 目に入り視界を塞ぐそれを拭う事さえ出来ず、上条はただただ立ち尽くしたまま一方通行を睨みつけていた。
 それを拭う為に手を上げる、ただそれだけの動作でさえ、目の前の化物の機嫌を損ねるのではないか、そんな不安さえ覚えたからだ。


 その視線に殺意などは微塵も込められていない。ただそこにあるのは、ごくごく薄い興味のみ。

 その所作に害意などは微塵も込められていない。ただそこにあるのは、気だるそうな空気のみ。


 にもかかわらず、上条の全身は緊張と重圧に包まれ、指一本動かす筋肉さえ動かない。


 今の上条を支配するもの、それは正しく恐怖だった。


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