過去ログ - 俺の妹がこんなに可愛いわけがないSSスレ Part.9
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446:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県)[sage saga]
2011/04/11(月) 20:59:27.42 ID:PwsM2k6to

 それは、煉獄の炎のような熱気が立ち上る、真夏の昼下がり。
 私は、現世の宿敵である“茶髪女《ウリエル》”からの呼び出しに応じる形で、とある寂れた公園を訪れる。

「こんなところに呼び出して、一体何の用件かしら」

 分不相応にもこの私を召喚したその主は、既に公園の木陰にあるベンチに腰を下ろして待っていた。
 ただ、その姿からは、今日の陽光にも劣らぬようないつもの輝かしい気配は無く、深淵の闇のような静寂を纏っている。
 ……ふん、この様子では、此処でこの私との因縁に決着を付ける……というわけではなさそうね。

「まぁ、ちょっと……そんな賑やかな場所でするような話でもないし、さ」

 その口から発せられた言霊は、先程感じた今のこの女の気配同様に、まるで生気を感じられないものだった。
 この唯我独尊を絵に描いたような女が、こんなになる状況……。“予知”される事象は、たった一つしかない。

「……成る程ね。大体察しは付いたけれど……聞いてあげるわ。言って御覧なさい」
「うん……」

 その返答は、了承か、それとも諦めか。
 そして、鮮やかに彩られた唇が、不釣合いにも絶望という名の呪詛を唱え出す。

「……あいつ、あやせと…………付き合うことになったよ」

          ☆

「──ふん、ブラコンを拗らせた挙句がこの始末なのだから、あなたの自業自得も大概ね。いい気味だわ」

 事の顛末を聞き終わった私は、殊更に煽るような台詞を口にする。
 露聊かも慰撫の言葉をかける気などないわね。第一、この女のほうでも同情など求めていないでしょうし。

 ──“因果応報”というものかしらね。
 闇の宿命に生きる私が、人間風情の馴れ合いの真似事をしたところで、所詮この結末。
 ……フッ……この私ともあろうものが、とんだ茶番劇を演じたものね。

 やはり“こんなもの”は、私には不要で無縁だということがよく分かったわ。
 ハ、友達? 恋人? ──畢竟、俗物共の下らないお遊戯よ。
 仲良しごっこは、もうお仕舞いにするわ。……まあ、初めからこの女とは仲良くなんてなかったけれど。

「うっさい。あんただって何よ、そのやさぐれようは。この世のものは全て敵みたいな顔しちゃって、そんなにあいつのこと好きだったの?」

 そうして返された、あの女のいつもの憎まれ口。
 でも、その台詞の意外な内容に、心の奥深くが突き刺されたような感覚を覚え、一瞬、息が詰ってしまう。

「……わ、私は元々こんなものよ。大体、こっ、この私の眷属になる資格があんな男にあるとでも思っているのっ」

 ──クッ……、不意を突かれて、我ながら分かりやすい動揺を晒してしまったわ……。

 吃驚して眼を丸くする私に対し、『あたしには全部お見通し』とでも言いたげな顔を向ける茶髪女。
 この女に直接私の真意を話したことなどない筈なのに……私の取り繕うような言い訳など意に介さず、といった様子。
 ……ふ、ふん、勝手に解ったような気になっていればいいわ。全く、何処までも厭味な女ね。

「ハイハイ。でもまあそうだよね。あんな見る目の無いやつ、あたしたちには釣り合わないって。折角このアタシ、が、さ……っ」

 ……?
 厭味女の癪に触る喋りが、最後の方で妙に変調する。……上擦ったような、口篭ったような。

「……あ、たしが…………あたし……がっ……」

 その声と同期して、あの女の肩が震え出す。否、肩だけではなく、その体全体が。
 私にとって初めて聞く声色。私にとって初めて見るその姿。
 感極まってベンチから立ち上がり、私の胸に飛び込んでくる、それは──

「うっ……うぐっ……、うわぁあぁぁあぁぁんっ!!」

 ──熾天使の、慟哭。

 あのプライドの塊のような女が。弱味など他人には決して見せなかった、あの女が。

 人目も憚らず、私の胸に縋りついて号泣していた。

「…………ふん……莫迦な女ね……」

 この私としたことが何の気紛れか、胸元の女の背中に手を回し、そのライトブラウンの髪をそっと撫でる。
 ……本当に……莫迦な女。そして……ずるい女ね、あなたは。
 あなたが先に、私の胸で泣いてしまったら……。
 
「…………うっ……っくぅ……ぇっ……」

 ……私の泣き顔が、周囲から丸見えじゃない……。


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