12:>>1[saga]
2011/03/28(月) 21:36:29.67 ID:gJVBoKdj0
「それに」
一人、違う方向に考えが進んできていたところに二の句がきたもので僕は先ほどの冬森さんではないけれど、少しばかり驚いた。
肩ぐらいなら揺れただろう。僕は若干の気恥ずかしさを感じながらも平然を装い、戸惑っていた彼女に続きを言うよう促した。
「秋川君の絵、見たことがあるんです」
「僕の絵?」
「はい。展覧会に、いったことがあって。それで、秋川君の絵が、とてもキレイだったから。それもあるのかもしれません。私、秋川君の絵が、好きなんです」
好きなんです。言われたことが無い言葉なだけに、上手く認識できない。今まで生きてきて、僕に対してそんなフレーズが耳に入ってきたことはなかった。少しばかり、照れる。しかし、展覧会のときの絵か。一応、賞をとったからしばらく置かれていたんだっけ。
「そっか、ありがとう」
僕の絵が好きなんだといわれたのだからお礼ぐらい言わないといけないが、これは上手く言えていなかったと思う。
思えば、女の子にお礼を言うのも初めてだ。なんだかこの時間だけで新鮮な体験をいくつもしている。
それが僕にとって後々プラスになるのかどうかは、まだわからないけど、悪い気はしない。
「だから、私のお話に、秋川君の絵がつくなんて、本当に嬉しいんですよ」
「僕でいいのかな、って気もするけど。期待には応えるよう尽力するよ」
ややぎこちないやり取り。僕の絵が好きだというのもどこまで信じていいものか。
まぁ、僕らはこうして少しずつお互いの距離を縮めて、異性への恐怖感を段々と消していかなければならない。
初めなのだから、こんなものでも誰も怒らないだろう。無理しちゃいけない、少しずつだ。そうでなくば、身体に悪い。
「ベタな青春ドラマ送っているわね。面白くていいけど、私を仲間はずれは少し寂しいかなぁ。というか、入ってきたのぐらい気づいてほしかったなぁ」
そんな声に驚いて振り向くと、春野さんがいつのまにかそこにいた。
記憶が正しければ先ほどまでいなかったハズだが、もしやテレポーテーションの類?
当のテレポーターはさも面白いものを見たという風に、顔をニヤつかせている。
この人はどうにも今でも脳が警鐘を鳴らしてくるタイプの人だが、冬森さんが全面的に信頼するほどの人だ。
悪い人ではないのは確かだろう。それに、外面で何も決めてはいけない。彼女について僕はほとんど何も知らないのだから。
だから金髪さんというだけで不良っぽいなぁとか決め付けるのは僕の偏見であって、正すべき思考であろう。
「随分面白い顔しているわね、秋川君」
「は、春野さん。秋川君が困っていますよ」
「……困らせるつもりはなかったんだけどね」
何だか好き勝手言われてしまったので、僕も反論することにした。
「若いうちに毛を染めると髪を傷めますヨ?」
結果、散々笑われたのだが。まぁ、彼女がハーフだなんていうバックストーリー、僕なんかが知っているほうがおかしいのだ。
うん。僕は間違ってない。それに、ほら。なんだか部内の空気があったまったような気がするからいいのさ。
たまには僕だって道化師の役を買ってみたくなるときがある。
つまり、あそこであんなコメントを放ったのは僕なりのボケだ。あそこでおきた笑いは当然というかウケなのだ。
だから僕は何も気に負うことなんてないのだ。きっとそうだ。いやそうなのだとたった今決めた。
決めたから、このことは黒歴史行きだ。もう二度と思い返すこともないだろう。
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