158:まるで幻のよう5 ◆hwowIh89qo
2011/09/09(金) 21:05:37.36 ID:uH8thC/k0
今思えば、妙なことだと感づいても良さそうなものだった。
春野の今日の行動は、少しばかり怪しかった。急に映画に誘うし、あの凍りついたような表情。
そして、俺は失念していた。彼女の家は門限が厳しいことに。
普通なら、放課後、つまり夕暮れに映画に誘うことなんてしない。
家につくころには、21時か22時頃になるだろう。
彼女はソレを知って俺を映画に誘ったのだ。何か、何か裏がある。
「――っ!」
裏が、ある……。暗い館内、暗い画面。湧き出てくる怨霊と絶叫と悲鳴。
ほう、ヒロインの首が飛んだ。鋭利な刃物でズバリ。
和的な陰湿な恐怖と、洋的な明快な恐怖を組み合わせてきたか。
なるほど。とまぁ、俺が感心しているところに春野が先ほどの声なき悲鳴をあげながら、俺の袖を引っつかんできた。
……やっぱり恐いんじゃないか。
「よく平気ね」
ぐずぐずと、涙声でそう言われる。彼女のレアな音声なわけだが、もう数回は聞いた。
普段が普段なだけに、こう弱気になっている春野は確かにそそられるものがあるような気もするが……。
毒婦と知って近づく必要もなし、だ。
「鍛えているからな」
「筋肉馬鹿……」
返す言葉もない。いやだが、肝が冷えるのは確かだ。
夢に出たなら、確実にうなされるぐらいの自信はある。俺の場合は恐いんじゃない。
やせ我慢をするのが得意ってだけだ。
映画も佳境に入った。流れる音楽もおどろおどろしく、何かの童歌がいい具合に加工音声となってこちらの恐怖心を掻きたてる。
そして、主人公はその命と引き換えに、怨霊達を未来永劫封じることに成功した。
誰一人助からぬエンドではあったが、上手くまとめた終わり方だろう。
「……立てるか?」
明るくなっていく館内。春野はすっかり放心し、腰が抜けたようだった。
顔は涙でぐしゃぐしゃになってしまっている。
「仕方ないな……」
ハンカチで涙を拭ってやる。無抵抗でされるがままな所を見るに、よっぽど恐かったらしい。肩を貸して、そっと立たせる。
「夏原君は恐くなかったの?」
「……鍛えているからな」
二回目のやり取りだ。なかなか自分の足で立てないようなので、仕方なくこのまま外に出る。
……この様子じゃ今晩は眠れないだろうな。トイレにもいけるかどうか心配だ。
223Res/233.21 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。