30:>>1[saga]
2011/03/29(火) 20:11:43.20 ID:NprJWFFv0
そしてそれは冬森さんも同様らしく、花が咲いたような笑顔を浮かべてケーキが陳列されているケースに近づいていく。
目当てのものはチョコケーキだが、その前に目移りするのが彼女の決まりらしい。
僕は、一度決めたらそれにするのがそうなのだが。まぁ、そこは些細な違いだろう。
共通項だらけの僕らにとって、違うところは少しでも多いほうがいい。
あんまりに似通っている者同士の距離が近ければ、当然のように誤解がそこに発生することになるからだ。
僕らがそういう関係だと誤解されるのは、きっと、どちらにとってもよろしくないだろう。
僕はいいとしても(男女の仲という概念が根本的に理解できない僕にとって、そういう関係に見られたからどうなんだっていうことがよくわからないからだ)
彼女にとってみればどうだろう。
女の子は些細なことで大きな問題を作り出すのを好む生物らしいから、彼女が何やら大事な事件に巻き込まれてしまう可能性がないわけではない。
「ねぇ秋川君。私たち、運がいいみたいです」
急に話しかけられたもので、驚いてしまった。それにしても何で僕は大好きなお菓子やさんでこんな小難しいことを考えていたのか。
甘いものの前に難しい考えはナシだ、ナシ。僕は心からの笑みを作って(なかなか自然に出てこないのが物悲しい)応える。
「運がいいって?」
「このチョコケーキ、最後の二つなんです」
「それは確かに運がいいね」
僕がそういうのを待たずに冬森さんは二つ頼んでいた。なんだか、僕の名誉にかかわるような眼で見られてしまいそうだ。
なにこれ、まるで僕がケーキを女の子に奢らせているみたいじゃないか。あまりにも不名誉すぎる。
というより、この店は僕も好きなんだけど。店員からの目が痛すぎてなかなかこれなくなりそう。
「買ってきました。思わず私が二人分買っちゃったんですけど、秋川君。ぴったりありますか? 私、小銭が心もとなくて。お釣りが出せないかもしれません」
「大丈夫だよ。ちょうどある」
回避できたらしい。僕は冬森さんにケーキの代金を支払って、一緒に店から出た。
これで不名誉な誤解は回避できたはずだ。店員から見えるようなやり取りだったのだから、僕がなんかダメ野郎と思われる事は無かったと思いたい。
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