57:>>1[saga]
2011/04/01(金) 21:05:58.02 ID:OpoHLyR10
放課後。
そそくさと逃げるように帰ろうとする冬森さんに声をかけた。
僕の出現に、冬森さんは心底困ったような、怖がっているようでいて、悲しそうな様子でもあった。
複雑な感情が混ざり合って、溶けてしまったようなそんな顔だ。僕は、どこか後ろめたいものを感じながらも口を開く。
本当にもう、時間がないんだ。
「冬森さん」
「あ、秋川君」
「部活に行こう。文化祭まで間も無い。絵なら安心していい。すぐにでも描き上げてみせるから。冬森さん。ただ黙っているだけじゃダメだ。何か、しないと」
僕がそう言うと、冬森さんはまるで泣きそうな顔をして。
「ごめんなさい」
そう言って、僕を突き飛ばして駆け出した。軽い僕は女の子に強くぶつかられると結構飛ぶらしい。
変に冷静にそんなことを考えていると、見る見る内に彼女は視界から消えていった。嫌な予感が的中すると、驚きもでないものらしい。
でも、とにかく。僕は追いかけることにした。逃げられて、堪るか。冬森さん。逃げていちゃダメなんだ。
僕らは、絵本が描きたいから、怖くて堪らない異性という互いの関係を無視してまで一緒の空間にいることを望んだんだ。
その勇気を無為にされたくない。絵本は完成させないとダメだ。二人の信頼に背くことになる。
夏原にしろ、春野さんにしろ、いい顔はしないだろう。
自然と僕の足に力が入り、やや遅れて彼女を追いかけた。思わず呆然としている場合ではない。
どこに向かうつもりかしらないけど、逃げ場所なんて無いハズだ。だから、走る。
本当に、僕らしくない。僕が女の子を見つけて、その腕を掴んでやろうと考えているんだ。
逃げるのではなく、追う。昔の僕ならば考えられなかっただろう。僕は変わったのだろう。
だからここまで必死になれる。本気で何とかしなければと行動できる。
昇降口にたどり着くと、焦った表情の夏原に出くわした。彼のこんな顔は、あまり見られない。余程、彼女の勢いが強かったのだろう。
「秋川! さっき冬森が」
「手伝って。一緒に手分けして探して」
「わかった。じゃあ春野も呼んでくる。お前はそのまま行け」
言われずとも。冬森さんが走っているなんて余程見ない光景だ。夏原がすぐに追いかけられなかったのも無理はないし、責めるつもりはない。
手伝ってくれるだけでもありがたい。それに、責めたところで早く冬森さんが見つかるわけじゃない。
彼女にあまり長い間走っていられる体力は無いだろうし、大分遅くなってきているハズだ。追いつける。とにかく走る。
肺が潰れようが、足がひしゃげようが。僕は彼女に追いつかなければならない。
校門を抜け、学校の前の道を駆ける。息がもう辛くなってきた。
「もっと早くに走ってれば」
自分のノロマさが嫌になる。見失ってから追いかけたのではそれじゃ遅すぎる。
冬森さんの背も見えないまま、僕の体力が先になくなっていた。思わず足が止まる。
情け無い、止まっている暇はないと己を叱咤し、僕はすでに棒になっている足を動かした。息も荒い。口の中にじんわりと鉄の味が広がってきた。
でも気にしていられない。
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