81:>>1[saga]
2011/04/03(日) 23:15:10.39 ID:hebi0UqT0
気がつけば教室は琥珀色に仕上がっていた。色合いが変化したような気がしてあたりを見回せばこの様、ということである。
思えば随分と集中してできたものだ。お陰で絵は完成。我ながら良い出来だ。これなら冬森さんのお話に見劣りはしない。
時計は17時過ぎを示していた。後ろにいた冬森さんも流石に居眠りをしてしまっている。
春野さんが後で様子を見に来るといっていたから、もうそろそろ来るだろう。そうなるとこっちから出向いたのではすれ違うかもしれないから待つことにする。
どうにもヒマなのだが、冬森さんを今起こすのもどこか勿体無い気がする。
それというのも、この夕日に包まれたように眠っている彼女がどこか神秘的に見えていたからだった。
手が疲れているハズなのに、自然とペンを、紙を掴む。無性にデッサンをとりたくなったのだ。彼女の姿を。この教室を。
「絵描きの性とでも言おうかな」
そう独り言を呟いて、ペンを走らせる。日がこれ以上沈まないように。今この教室の、光量も、熱量も、空気も変化してはならない。
できれば時間が止まって欲しいところだ。でもそうもいかない。だからこそ描くのだろう。この瞬間を、できれば永遠に拡大したいから。
機械を使わずに、自分の手でそれを遂げたいから。
絵を描く人間なら、どうしようもなく描きたくなる瞬間というのが存在する。僕の場合、それが夕暮れで静かに眠る冬森さんだったのだ。
自分自身驚きだ。そんな感覚が、まさか女の子である冬森さんから得るとは思いもしなかった。本来ならば女の子は僕の敵だ。
恐怖し、惑い、逃避する存在だ。それだけど、冬森さんや、春野さんは違う。彼女等は僕を助けるだけでなく、ある部分で僕の支えにすらなっていた。
こうなってくると、認めざるを得ない。僕の過去はきっと、どうしようもないほどの運の悪さからきたのだ、と。そして彼女らは、素晴らしい人たちであることを。
気づけば描き終えていた。時間もそうかかっていない。興奮しながら描いたためにやや荒いところも目立つけど、これなら十分満足できるレベルだ。
流石に人に見られるのもアレだから鞄の深くにしまっておこう。
「上手いものねぇ」
僕の掌から冬森さんのデッサンが消えてなくなった。嫌な予感を感じながら振り向けばそこに春野さんがいた。
背後にエフェクトがかかっているような気がする。BGMは是非ラスボス系のでお願いしたい。
某宇宙戦争のラスボスのアレはしっくりくるし、巨大怪獣のあのテーマソングでもいい。
「い、いつからそこに」
「絵描きの性〜らへんからかしら?」
「殆ど最初じゃないですか!」
「まぁまぁ。流石に本人がその気ならからかわないわよ。ほら、返すわ」
「そ、その気って?」
手元にデッサンが帰ってきた。からかわないと言ったくせに、春野さんはニヤついている。よりにもよってな人に目撃されたものだ。それも言い逃れできないほどの。
「さぁ? ふふ。面白いけど、ノータッチにしといてあげるわ」
「……複雑だなぁ」
「まぁいいわ。……それで、そろそろ印刷ってことにしたいんだけど?」
「それなんですが――」
完成してはいる。してはいるけど、やっぱり冬森さんに最初に見てもらいたい。
どう伝えるか言いあぐねていると、春野さんが意地の悪い笑みを浮かべて僕を見ていた。
「じゃ、ちょっと外で待っているから――手早く、ね?」
223Res/233.21 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。